チャイ、バインミー、トルコスタイル――名古屋の「朝」を賑わす、異国風モーニングがアツい
津島にトルコ人が増えはじめたのは、十数年前ではないかという。数人のトルコ人が、このあたりに多い解体の現場仕事で雇われたことがきっかけだった。そのつてをたどって、仕事のほしいトルコ人が集まってくる。労働力の必要な日本の会社も彼らを受け入れた。日本人の働き手がどんどん減っているからだ。 やがて仕事に慣れ、言葉を覚えたトルコ人の中には、独立起業する人も出てくる。そこに雇われるトルコ人も増えていく。ユンさんのようにレストランを開く人や、食材、送金など周辺ビジネスも活発になっていく。いまや日本のどこでもそうであるように、こうして津島にはトルコ人のコミュニティーが広がっていったというわけだ。 そんな彼らのおなかを、『TRトルコ料理レストラン』は朝・昼・晩と満たす。とくに大切なのは朝食だ。トルコでは朝からテーブルにたくさんの料理を並べて、ゆったりと時間をかけて食べる習慣がある。
ユンさんはそんなトルコスタイルと一緒に、名古屋のモーニングも出すつもりだったが、 「トルコ人のお客から、ちょっと料理の種類が少ないんじゃないのって言われちゃって」 あれも出してよ、これも食べたいとお客の意見を聞いているうちに、いまのメニューに落ち着いたというわけだ。そして毎日、お客は早朝からトルコの家庭の味を楽しみ、現場仕事に向かっていく。これもまた、外国人労働者の多い愛知モーニングの、ひとつの姿なのだ。
--- 室橋裕和(むろはし・ひろかず) 1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイ・バンコクに10年在住。帰国後はアジア専門の記者・編集者として活動。取材テーマは「アジアに生きる日本人、日本に生きるアジア人」。現在は日本最大の多国籍タウン、新大久保に暮らす。おもな著書は『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』(辰巳出版)、『日本の異国 在日外国人の知られざる日常』(晶文社)、『バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記』(イースト・プレス)、『おとなの青春旅行』(講談社現代新書、共編著)など。