チャイ、バインミー、トルコスタイル――名古屋の「朝」を賑わす、異国風モーニングがアツい
アローラさんとシンさんが住んでいるのは店の2階だ。6時30分には起きて、仕込みを始める。そして7時30分からおおぜいのモーニング客を出迎えた後、ランチタイムや夜はふつうにインド料理を提供する。なかなかにハードな毎日なのだ。 「でも朝から、いろんなお客さんが来るから楽しいですよ。みんなここで家族みたいに過ごしてくれるしね」 アローラさんもいまや、そのファミリーの一員なのだろう。袖野さんが言う。 「気さくでいい男だよ、アローラは。誰かの誕生日にはケーキなんか出してくれたりね。ちょっとした気遣いが嬉しいよ」 「別にね、誰がいつ誕生日なんて言ってないのよ。免許の書き換えがどうとか、そんな話で覚えてくれてるの」 袖野さんの奥さん、恵子さんも続く。ご夫婦で常連なのだ。 「頭もいいし、顔もいい」 なんて誰かの言葉に、また笑いが巻き起こる。こうして朝のひとときを、みんなで楽しく過ごしているから、『デリーパレス』の面々は若々しいのかもしれない。
毎朝の日課を過ごしたあとは、アローラさんにチケットを渡して、ひとりまたひとりと店を出ていく。名古屋モーニングの常識、回数券だって用意されているのだ。一食400円のチケットが11枚つづりで4000円。一回お得というわけだ。 後片付けをするアローラさんとシンさんを見守っているのは、壁にかけられた2種類のお守りだ。ヒンドゥー教の神々をあしらったものと、その隣には日本のお寺の商売繁盛のもの。常連客がお遍路に行ったときのお土産なのだそうだ。
元技能実習生が、日本人のおばあちゃんから受け継いだ店
「豚肉のハムやレバーのパテ、鶏肉のでんぶもマヨネーズも、ぜんぶ手づくりなんですよ」 フランスパンにたっぷりの具が挟まれたベトナム風のサンドイッチ「バインミー」を手に、高月タオさん(32)は言う。フィルターからコーヒーがぽとりぽとりとグラスに落ちてくるのを眺めながら、バインミーを食べてゆったりと過ごす。そんなベトナム式のモーニングを出しているのは、名古屋市瑞穂区にある『ダラット・マリムラ』だ。 いまでは近所の女性たちに料理教室を開くほど地域に溶け込んでいるが、店主のタオさんはもともと技能実習生だったという。 「お姉さんと一緒に、2013年に日本に来たんです。自動車のイスのカバーとかをつくる工場でした」