チャイ、バインミー、トルコスタイル――名古屋の「朝」を賑わす、異国風モーニングがアツい
働き始める前に、実習生たちは受け入れ企業を監理する組合で1カ月ほどの講習を受ける。タオさんはそこに勤めていた日本人の女性と仲良くなった。お正月には女性の自宅の餅つきに招かれて、そこで女性の息子さんと出会うのだ。 「それがいまのダンナです(笑)」 家族ぐるみの交際が始まったが、技能実習は基本的に3年間だ。期間が終わってからいったん帰国し、生まれ故郷のベトナム・ダラットで結婚式を挙げた。そして戻ってきた名古屋で新婚生活を始めたタオさんがよく通ったのが、夫の祖母が営む喫茶店だった。 「昔ながらのたたずまいで、大好きだったんです。おばあちゃんも90歳なのにがんばっていて」
しかし2018年、その祖母が転倒し骨折。年齢もあって、これ以上は店を続けるのは難しいという話になったとき、タオさんが名乗りを上げた。 「私がやってもいい?って、おばあちゃんにお願いしたんです。料理が好きだったこともありますが、おばあちゃんの思い出がたくさん詰まったお店を、どうしても残したかった」
祖母の店「マリムラ」と故郷の街「ダラット」を合わせて新しい店名にし、生まれたばかりの娘を抱えながら必死に切り盛りをした。すると祖母の常連客たちが、応援しようと次々やってくるようになる。彼らは年配者も多く、朝が早い。 「だったら昼の仕込みの前に、なにか出そうかなと思って」 こうしてモーニングのサービスが始まった。当初は純名古屋スタイルのメニューも出していたが、いまはバインミーとベトナム式モーニングプレートに落ち着いた。
「店を開いてからいろいろな人と出会えたし、友達も増えました。日本人は温かいなって本当に思います」 店は2021年2月に現在の場所へ移転をしたが、椅子などの調度品は「マリムラ」のものだ。94歳になる祖母もときどき顔を見せる。日本人の祖母の思いを、ベトナム人の孫が受け継いでいるのだ。
トルコのおっちゃんたちの朝は
名古屋市の西、愛知県津島市。県道68号沿いにある『TRトルコ料理レストラン』は、朝6時から店を開く。ガタイのいいトルコのおっちゃんたちが、次々と入ってくる。 「みんな解体とか建築とか、現場の仕事だよ。朝早いからね」 そう話す彼らの前にずらりと並べられたのは、トルコのホワイトチーズ、オリーブ、メネメンというトマトたっぷりのトルコ風スクランブルエッグ、はちみつとバター、卵焼きとサラダ……。 「トルコではもっと出てきますよ、朝ごはんを大切にしますからね」 店主のユン・ユヌスさん(32)は言う。テーブルいっぱいに広がったトルコの家庭の味を、パンと一緒にいただく。力をつけたおっちゃんたちは、今日も仕事に出かけていくのだ。 彼らのようなトルコ人が、津島周辺にはおおぜい暮らす。中古車の輸出や、食材関係も多いが、ほとんどは解体や建築といった業界で働いている。愛知県にはおよそ1500人のトルコ人がいるが、かなり多くの人が津島とその周辺に住む。そんな彼らの大事な食卓のひとつが、この『TRトルコ料理レストラン』なのだ。