なぜ私は『松島トモ子 サメ遊戯』のような映画を作り続けているのか…「バカ映画」の巨匠・河崎実監督かく語りき
すべては人との出会い
河崎 それもスタッフというか、人のおかげですよ。もう亡くなったけど、叶井俊太郎という、『アメリ』を配給したプロデューサー。あいつが居なかったら俺も『いかレスラー』以降の映画は撮れてないし。 ―― そこで確立した感じはありますね。 河崎 そうだね。あいつとの二人三脚で。実相寺監督との出会いもそうだけど、本当にすべての人との出会いですよ。家族もそうだけど。それに感謝して、バカなようだけど真面目にやってるっていうことしかないよね。俺、奇跡だと思うよね。俺が映画だけでやっていけるのは。 ―― そうですね。 河崎 まあ、当然いろいろ大変なんですよ。裏ではいろいろ大変なことが起きているんだけど、やっぱり表面上は白鳥のように水面を優雅に。で、下ではもがいているというね。『巨人の星』の花形満が言ってたことですよ。
俺は運のいい男
―― 外から見てると、河崎さんは学生時代から全然変わらずに自分の世界を作られていると思うんですけれども、河崎さんの中では何か違いってあります? 8ミリ時代と今って。 河崎 全然変わってないよね。 ―― やりたい世界は変わってない。 河崎 全然変わってない。システムとかお金とかの部分は当然プロだから変わってるんだけど、おもろいものを作りたいということでは全然変わってないですよ。ただ、あなたもそうだと思うけど、頭の中で考えて「これをやろう」といっても、なかなか企画って進まないじゃない。何本も考えて、実現するのはごく一部じゃないですか。だから、常に考えていて、松島トモ子が出てきたら動くとか、そういったことだよね。でも、それが続いて実現化しているのは奇跡に近いと思うんですよね。だから、俺はなんて運のいい男だろうっていう。 ―― すごいタイムリーな企画をどんどん出しているけど、実はその裏に実現しなかったたくさんの企画もあるんですね。 河崎 無数にあるよね。 ―― じゃあ、常にどんどん企画開発して、営業をずっとしているんですか? 河崎 営業というか、基本的に飲んでる時にバカなことばっかり言ってるんじゃないですか。で、次の日の朝起きて書いてみたら「あ、これ駄目だ」とか、その繰り返しなんですけど。 ―― 河崎さんの作り方だと、お金を出してもらうというよりも、思い立って「これだ」と思ったらやっちゃうという感じですか。 河崎 それがまた不思議なことに、俺の企画が面白いと言う人がいっぱい出てきて。テリー伊藤とか、あといろんなプロデューサーが居るんだけど、なんか知らないけど「やらせてやるぞ」ということになってくるんですよ。しかも、その時はその人が内容にいっさい口出しなしっていう。 ―― なるほど。「好きなことやっていいよ」というプロデューサーが。そうですね。叶井さんの前はテリー伊藤さんがいました。 河崎 テリー伊藤さんもそうだったけど、100パーそういうふうになってるんですよ。例えば「この女優を出してくれ」とか、そういう内容にかかわる改変を迫られるようなことはなかったね。それが俺の運のよさというか。 「Yahoo!ニュースになった時、5行で全部が分かる映画をずっと作ってきた」河崎実監督の“笑撃の映画術” へ続く
小中 和哉/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル