“互いに頂点を目指したからこそ、当人たちにしか分からない悔しさがある” 夏の富士で坪井夫妻がみせた涙の理由
それを、自身のピットガレージで見守っていた斎藤は、自然の涙が溢れていたという。
「やっぱり4年ぶりの優勝だったので、嬉しかったです。本当に自然と感動して涙が出てきました。今こうして振り返ると長かった気がしますけど、いざ4年ぶりと言われると『そんなに経っていたっけ?』という感じがしました」(斎藤)
坪井が勝利から遠ざかっていた4年間について、あまり多くは語ってくれなかったが、あと一歩で2位に終わり、悔しい思いをしている夫の姿を誰よりも近くで見てきたのが、彼女自身だった。
2020年の第2戦岡山で初優勝を飾り、その年の最終戦でも激戦を制して2勝目を飾った坪井。当時は“期待の若手”と大きな注目を集めたが、翌年は7戦中5戦でノーポイントという苦い経験をする。2022年の第6戦富士で実質トップを守り切ってピットアウトするも、セーフティカーのタイミングで1台に逆転され、悔しい2位フィニッシュ。昨シーズンも“このままいけば勝てる”という流れの中、セーフティカー導入で風向きが変わり、悔しいレースを経験してきた。もちろん、それらのことは坪井本人の記憶にも深く刻まれていた。
「残り5周くらいから、今までのことが全部フラッシュバックしてきて、チェッカーを受けた時は泣いていました。4年ぶりということもありますし、そろそろ勝たないと自分の立場がヤバいなと思っていました。TOM’Sのみんなも良いクルマを作ってくれて、最高の戦略も立ててくれて、これ以上言うことのないレースでした」(坪井)
結果的に“夫婦同日優勝”という快挙になったが、そこに至るまでにコース上で悔しい経験をたくさんしてきた2人でもある。だからこそ、2人にとっては特別な週末になったことは間違いないだろう。
そして、レースウィークを通して感じたことは、お互いがそれぞれのレースでベストを尽くして刺激し合ったことが、結果的に勝利を掴むための“精神的な助け”になっていたということ。