「製薬会社と政府の癒着も」欧州名門大学からの警告…「効かないのに高い」がん治療薬は、なぜ急増しているのか
製薬会社と政府の「癒着」も
過去25年間に欧州で承認されたがん治療薬のうち、およそ6割が「効果のエビデンスがない」または「わずかな効果しかない」とする衝撃的な論文が、今年2月にオランダ・ユトレヒト大学のローレンス・ブローム准教授らによって公表された。 【一覧】日本にもたくさんある…「高額ながん治療薬」のリスト 本誌はブローム氏に取材し、その内容を【名門ユトレヒト大学が警鐘…「がん治療薬の6割は効かない」ことを暴いた「衝撃の医学論文」の中身】で報じている。 ブローム氏らのチームによれば、1995年から2020年の25年間に欧州医薬品庁(EMA)が承認した、抗がん剤やがん治療薬131のデータを分析したところ、およそ6割が「効果が怪しい」ものだった。それにもかかわらず製薬会社は、開発に必要な研究開発費を大幅に超える莫大な利益を得ているという。 効果に乏しい抗がん剤やがん治療薬の多くは、「既存のクスリでは治る見込みのない患者」のために開発されている。確かに、万策尽きた患者にとって新薬はまさに一筋の光だ。とにかく一刻も早く承認するべき、という言い分も理解できなくはない。 しかし、ブローム氏はこうも主張する。 「製薬会社と政府や規制当局は、国によっては癒着しているところもある。その裏付けを取るのは非常に難しいですが、これほど承認を焦り、しかも製薬会社が莫大な利益を得ているとなると、見過ごすわけにはいきません。私たちの研究をきっかけに、各国でも高額ながん新薬の実態を検証してほしいと考えています」
どこまで行っても「毒」
医薬品医療機器総合機構の公表資料によれば、日本では過去5年間で40種を超えるがんの新薬が新規承認されている。その一部を前出記事【名門ユトレヒト大学が警鐘…「がん治療薬の6割は効かない」ことを暴いた「衝撃の医学論文」の中身】に掲載している図表に抜粋したが、多くは薬価がいまだに高額だ。 そもそも、すでに「効く」とされている抗がん剤についても、その意義に疑問を呈する人は、医療関係者の中にも少なくない。国立がん研究センターを経て、現在は漢方を中心にがんの治療を行う銀座東京クリニック院長の福田一典氏が言う。 「抗がん剤の本質は毒ですから、重い副作用をなくすことは決してできません。今から約80年前に初めてできた抗がん剤はナイトロジェンマスタードといって、毒ガス兵器のマスタードガスをもとにした化合物でした。これは現在も、毒性を弱めたものがアルキル化剤と呼ばれ、使われています。 抗がん剤で難しいのはがん細胞にだけ、この毒を作用させること。しかもがん細胞は治療を進めるほどに、耐性を獲得してクスリが効きづらくなっていく。そうなると、どんどん強い抗がん剤を使うほかなくなり、とくに高齢になると白血球減少や脱毛、胃腸の出血といった副作用も重くなっていきます。はたして、70歳をすぎて、苦痛の中で数ヵ月延命することが本当に幸せでしょうか」 オプジーボの薬価が下がり続けていることを受けて、この春、小野薬品工業の相良暁会長は「理不尽だ」と憤った。だが多くの人が、現在のがん治療薬をとりまく「構造」に気づいて声を上げるようになれば、そうも言っていられなくなるかもしれない。 「週刊現代」2024年6月8・15日合併号より
週刊現代(講談社)