背中で歩行介助も...認知症の柴犬「しの」と介護する猫「くぅ」に訪れた最期の別れ
食事も変化していきました。だんだん食べなくなるしのの好みに合わせて、いろんなフードを買って試行錯誤。その結果、ドライフード→砕いてふやかしたフード→ウェットフードへと切りかえたことで、くぅが食事中にやって来て横取りするようになり、恒例のごはんドロボーが始まりました。
虹の橋を渡ったしの
いつものように食事をして少し歩いて、横になったしの。でも、その夜はいつもと違っていて、突然激しく吠えはじめました。それと同時にまったく立てなくなり、体は熱くなって、安定剤もほとんど効かなくなりました。 ひとしきり吠え続けた後はウトウト。起きるとまた吠えるをくり返すしのを、一晩中抱っこであやし続けました。 車で1時間半のかかりつけ病院と救急病院、車で2分の病院。今からだとふたつの病院に着く時間と、近くの病院の開院時間はあまり変わらない......長時間、車に乗せるのは忍びなく、近くの病院が開くと同時にしのを連れて飛びこみました。 心電図とエコー検査の後、治療のために夕方まで一時入院になったしのを預けて帰宅。少し寝ようとベッドに入ると、めずらしくくぅが布団に入ってきて、私にぴったり寄り添いました。 2、3ヶ月前から、ずっとなにかに怯えている様子だったくぅは、便秘や口内炎などの体調不良がつづいていました。きっと、しのの体の中の異常を感じとって、不安とストレスをつのらせていたのだと思います。 14時30分。病院からの電話で目が覚めました。 「しのちゃんの心臓が止まりました。いま、人工呼吸と心臓マッサージをしています。すぐ来られますか?」 あわてて家を飛び出しました。治療室では、管でつながれて横たわるしのに、先生が懸命に心臓マッサージを続けてくれていました。 「やめたら心臓が止まります」 信じられない気持ちと「ああ、逝ってしまうんだな」という思いで涙があふれました。 「しの、いい子ね。大好きよ。そばにいるよ」と、苦しそうに息をするしのを撫でながら、なんどもなんども声をかけ続けました。長く短い10分間を過ごした後、最後になる言葉を伝えました。 「先生、もういいです。ありがとうございます」 ......ゆっくりと静かに、しのの心臓が止まりました。 その後の説明では、大量の下血と、レントゲンで胃拡張がみられ、おそらく胃の中にあったガンかなにかが、少しずつ大きくなり、溜まっていった血で破裂したのだろう、とのことでした。でも、痛く苦しかったはずのしのの顔は安らかで、少しほほえんでいるようでした。 しのを家に連れて帰り、いつも使っていたベッドに寝かせると、猫たちが代わるがわるそばにやって来ました。まるで、別れのあいさつをしているようでした。その中で、くぅだけは怯えたように遠くからしのを見ているだけ。 どうしても近づけない。でも、翌朝そっとしのに近づき、じっと顔を見つめた後、少しの間そばに寄り添いました。それが、くぅとしのの別れのあいさつになりました。