考察『光る君へ』14話 兼家(段田安則)が逝き、道隆(井浦新)の独裁が始まる。道兼(玉置玲央)は絶望、道長(柄本佑)は奮闘
妻それぞれに辛い道
道長の見舞いを受け、労わられて、夫の背中を見送る明子の顔に、先週とは違う感情が浮かんでいる。恨みが晴らせるなら、我が身と心はどうなってもいいとまで言っていた彼女だ。ましてや、憎い兼家の血を引いた子など……くらいには考えていたのではないだろうか。しかし、いざ流れてしまうと予想外に辛く、そして、思いがけず道長の優しさに触れて、明子自身、自分の思いに戸惑っているように見えた。 だが、このあとの場面での倫子の台詞。 「明子様はお若いから、これから御子はいくらでもできましょう。私もせいぜい気張らねば」 夫を愛してしまったら、妻それぞれに辛い道が待っている。嫉妬と意地の張り合い、子が生まれたら息子、娘につけられる優劣。ひとりの男を巡る女たちの心は、けして穏やかではいられない。
大丈夫か道兼、いよいよ
歴史物語『大鏡』に記されたように、父・兼家の喪中、遊興にふける道兼。 道兼の妻・繁子(山田キヌヲ)から離婚の申し出があり、その前にちゃんと娘を逃がしているあたりが、しっかりした女性だと思わせる。彼女──藤原繁子は歴史にその名を残した人物である。この物語の中で、これからも登場するだろうか。 しかし、明子が道長に「喪に服していらっしゃるのに」といい、繁子が道兼に「お父上の喪にも服さぬあなたには愛想が尽きました」と告げ、公任(町田啓太)と斉信(金田哲)、行成(渡辺大知)が「実の父上の喪にも服さぬ道兼さまはおかしい」と話しあうなど、台詞でこの期間は服喪中だと何度も強調されているのに、衣装や調度でそれが表現されなかったのは、やや残念であった。 『源氏物語』では登場人物たちが鈍色、黒色など、喪の色を身にまとう場面が幾度も描かれ、そして「華やかな装いよりもなまめかしい」とも書かれている。井浦新、柄本佑のそうした装いを見たかったのと同時に、喪服を身に着けずに遊女を招き、遊び呆けている道兼の異常さが、映像としてわかりやすかったと思うのだが、予算上の都合だろうか。 致し方ないので、想像して楽しむこととする。 荒み切った道兼は、父が死んだという以上に、父に見捨てられたという絶望が深いのだ。このレビューで毎週のように「大丈夫か道兼」と書いてきたが、いよいよ大丈夫ではなくなってきた。
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