ペロブスカイト太陽電池で先行する積水化学、研究開発の礎になった「2つの既存事業」とは
■ 既存事業のノウハウを活用する積水化学工業 ――著書では、積水化学工業、東芝エネルギーシステムズ、パナソニックといったペロブスカイト太陽電池の国内完成品メーカーについても解説しています。積水化学工業を先行企業と位置付けていますが、どのような点で他社をリードしているのでしょうか。 葭本 積水化学工業は、ペロブスカイト太陽電池の課題である「耐久性」と、量産体制を構築するための「製造プロセスの確立」という2点において、他社をリードしていると見ています。 同社は、他社より先行してペロブスカイト太陽電池の耐久性について「10年相当」を実現したと公表しており、2025年までには20年相当の耐久性の実現を目指すとしています。また、「ロール・ツー・ロール(R2R)」と呼ばれる方法で製造プロセスを確立しており、製造コストの低減が期待されています。 R2Rとは、巻かれた長いフィルムを送り出して連続的に成膜・加工する製法を指します。この方法は、他社が採用する「シート・ツー・シート」(基板に一枚ずつ塗る製造方法)と比較すると、設備が安価で、生産速度を速められるメリットがあるとされます。 ――積水化学工業は独自の手法を用いて、「耐久性の向上」と「製造コストの低減」を図っているのですね。 葭本 興味深いのは、積水化学工業が既存事業の知見や技術を生かして、その強みを確立しようとしている点です。太陽電池の発電層に水や酸素が入らないように保護する「封止材」は一例です。 同社は液晶パネル用のシール材を製造してきたノウハウがあり、世界シェアはトップクラスで、その技術を封止材に応用しています。同じくR2Rの製造方法についても、長年にわたりセロハンテープなどの製造を行ってきた背景があるため、数多くの知見を有していると聞きます。 積水化学工業では、ペロブスカイト太陽電池の事業化を2025年と位置付けています。他方、パナソニックではガラス型のペロブスカイト太陽電池に関する研究開発を進めており、同社は2026年の試験販売開始を見込んでいます。このように、ペロブスカイト太陽電池一つとっても、それぞれに違ったビジネスモデルを描いているのです。 ペロブスカイト太陽電池に用いる基板の種類やビジネスモデル、製造方法は各社さまざまですから、その比較も容易ではありません。だからこそ、各社の動向を探ることの面白さもあります。中長期的にはどの事業が大きな進展を見せるのか、今後の動向を注視したいと思います。
三上 佳大