ペロブスカイト太陽電池で先行する積水化学、研究開発の礎になった「2つの既存事業」とは
■ NTTデータがペロブスカイト太陽電池に注目する理由 ――国内では、NTTデータのデータセンターやKDDIの電柱型基地局などでもペロブスカイト太陽電池の設置が進んでいるとのことですが、今後、こうした動きは広がりを見せるのでしょうか。 葭本 広まりを見せると思います。大手企業の多くがカーボンニュートラルや脱炭素化を掲げており、企業活動を進める中で温室効果ガスを減らすことが社会的な要請になっているためです。 例えば、NTTデータはエネルギー消費量の多いデータセンターを保有している事情もあり、早い段階から積水化学工業と共同でペロブスカイト太陽電池の実証実験を進めてきました。 同様に、KDDIもペロブスカイト太陽電池の実証を進めています。その背景には、基地局の特徴が影響しています。KDDIの基地局の過半数は、敷地面積が畳3畳分程度の「電柱型」であり、従来型のシリコン太陽電池の設置は困難です。そこで、ペロブスカイト太陽電池の曲げられる特性を生かし、ポールに巻き付け、そのポールを電柱に設置する形で実証しています。 電柱型基地局1カ所あたりの発電量は小さくても、KDDIの基地局は国内数万カ所あるため、総量で見るとかなりの再生可能エネルギーになります。自社の基地局というインフラを活用して再生可能エネルギーをつくるという考え方があり、ユニークだと思います。
■ 国産ペロブスカイト太陽電池に寄せられる政府の期待 ――政府はペロブスカイト太陽電池の普及支援を行う姿勢を見せていますが、この背景にはどのような要因があるのでしょうか。 葭本 最初のきっかけは2020年、当時の首相だった菅義偉氏が所信表明演説で行った脱炭素宣言です。この脱炭素を実現する鍵となる技術として「次世代型太陽電池」というキーワードを挙げました。おそらく、念頭にはペロブスカイト太陽電池があったのでしょう。 それを受けて、2021年に設けられたのがグリーンイノベーション(GI)基金です。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に2兆円の基金を造成して、脱炭素化技術の研究開発や実証を支援しています。 日本の国土には山が多いことに加え、2010年代に始まった固定価格買取制度によって太陽光パネルの設置が進んだことで、太陽光パネルの設置適地(設置に適した場所)はかなり減っていると指摘されます。このような状況下でも、ペロブスカイト太陽電池であれば設置できる場所があるため、政府も期待を寄せています。 加えて、政府がペロブスカイト太陽電池の普及支援を行う背景には、エネルギーの安全保障の観点もあるようです。シリコン太陽電池の多くは中国で製造されており、太陽電池生産の中国依存度を下げたい思いから、ペロブスカイト太陽電池の国産化を進めたい、と考えているのではないでしょうか。