60代夫婦が本当に意識すべき年収の壁とは?
夫婦で知るべき年収の壁について
次に、夫婦で知っておくべき壁についてお伝えしておきましょう。これには夫(妻)の働き方や収入によって、壁の存在や影響は人それぞれです。 まず、扶養者である夫・妻の勤務先に配偶者手当がある場合、決められた金額を超えると手当の支給がなくなるため扶養者の収入が減ります。前述の通り、配偶者の年収103万円を限度としている会社が多いのですが、勤務先のルールと金額によって収入への影響は人それぞれです。 次に、扶養者の所得税に関わる配偶者控除ですが、そもそも扶養者自身が高年収の場合は控除を受けることができません。具体的には、給与収入のみの年収で1195万円以下、あるいは、合計所得金額1000万円以下でなければ控除はありません。 なお、控除が受けられる場合は、合計所得が「900万円以下」「900万円超950万円以下」「950万円超1000万円以下」の3つの区分と配偶者であるパート主婦(主夫)の給与収入で控除金額が決まります。 パートで働く妻・夫の年収150万円まで控除額は減額されないため、150万円の壁とも言われています。この場合、控除の最大金額は38万円(70歳以上の場合は48万円)になり、減税額は38万円×扶養者の所得税率です。所得税率が20 %の場合で7.6万円の手取り増になります。 実際のところ、パート主婦・主夫の年収が150万円の壁を超えても201万円までは段階的な控除の減額ですみます。従って、収入増の効果の方が増税分を上回り、夫婦の手取り収入の合計額は増える効果があります。
壁を超えたらデメリットしかないのか?
壁を超えることで得られるメリットもあります。例えば、最も影響が大きい106万円の壁。60歳になるまでは国民年金第3号被保険者として保険料を拠出してこなかったパート主婦・主夫には、厚生年金保険料の負担が生じます。これが「働き損」になると考え方の根拠と考えますが、長期的に不利益を被る可能性もあるのです。 106万円の壁を超えて社会保険に加入すると、将来の年金受給額が増加します。厚生年金は、加入期間が長くなるほど、また月給である標準報酬月額が高いほど受給額が増えるため、60代でも加入することで老後の経済的基盤を強化できます。 60代は、まだまだ働ける時期であり、この時期の就労が将来の経済的安定に大きく寄与する可能性があります。厚生年金は70歳になるまで加入できますから、60歳から70歳まで10年間加入し続けた場合、平均月収によって増やせる年金額を見ておきましょう。 - 平均月収10万円の場合:年間約6.6万円増加 - 平均月収15万円の場合:年間約9.9万円増加 これらの増額分を20年間(70歳から90歳まで)受給すると仮定すると、総額で約132万円から198万円の増加となります。たいした金額ではない、と思われるかもしれませんが、70歳まで働くことで、その間の収入も得られます。例えば、月収10万円で10年間働くと、1200万円の収入になります。これは、老後の生活資金として大きな助けとなるでしょう。 なお、収入があるうちは公的年金を繰り下げして増額することもできますから、選択肢が増えるというわけです。また、経済面以外のメリットもあります。社会とのつながりを維持することで、健康寿命の延伸にも寄与する可能性があります。 結論として、年収の壁についての議論が周辺で進んでいますが、むしろ、自身の健康状態や家庭の状況、将来の経済的な見通しを考慮して、柔軟に働き方を選択することが重要ではないでしょうか。
三原由紀(プレ定年専門ファイナンシャルプランナー)