<ボクシング>辰吉が認めたV6山中の「神の左」
〈ボクシングWBC世界バンタム級タイトル戦 4月23日・大阪城ホール〉 王者・山中慎介(帝拳)TKO 9回11秒 挑戦者・3位 シュテファーヌ・ジャモエ(ベルギー) 山中は不満だった。長谷川穂積(真正)の持つ日本歴代2位タイ記録となる世界戦での5連続KOで、V6をスカっと決めたというのに手放しの笑顔でもない。 「つめが甘い。もっと早く倒しておかなくちゃいけなかった。一発効かせせた後に、本来なら3、4発と続けなければならなかったのにまとめ方が問題。(距離的に)行き過ぎたり……左に頼りすぎてバランスの悪さが出てしまった」 世界3位にランキングされている、シュテファーヌ・ジャモエ(ベルギー)とは、格が違った。1ラウンドから足を少し使って、“自分の距離”をつかむと、もう山中ワールドである。ジャモエは、硬くガードを固め、待ちの姿勢。山中の「神の左」と言われる、その左ストレートを思い切り警戒していた。にも関わらず、山中は、2ラウンドに、その亀の甲羅のように固めたガードを突き破るようにして左を浴びせ、ジャモエはセカンドロープに尻餅をつくように一度目のダウン。 「あれは目のフェイントで持っていったパンチ」 そこからは、ボディストレートでガードを降ろさせ、いちかばちかで振り回してくる右フックの打ち終わりに、至近距離から左を角度をつけて打ち込んだりと“鉄の牙城”を崩すために、あれこれと工夫をした。4ラウンド終了後の公開採点は、3者が揃って40-35と圧倒した。その後、幾度となく、左を浴びせて、ジャモエを、よろめかせたが、山中自身が反省するように、なかなかフィニッシュにまで持っていけない。ガードを固める上にパンチを打つ瞬間に体を後ろに移動させるので、どうしてもダメージは薄らぐ。欲を言えば、右の強いブローや、コンビネーションも試してもよかったのだろうが、左に依存していた。 1万3000人のファンで埋まった大阪城ホールには、山中の地元滋賀から3500人の大応援団がかけつけていた。「会場すべてが自分を応援してくれているように感じて力になった。でも、その分、倒さなければという力みにつながったのかもしれない」。地元ゆえのプレッシャーも“つめの甘さ”に影響を与えていたのかもしれなかった。それでも、8ラウンドに2度ダウンを奪い、続く9ラウンドに左を打ち込むと、ジャモエは、ようやく仰向けになってキャンバスに転がった。9ラウンド11秒TKO勝利。