<ボクシング>辰吉が認めたV6山中の「神の左」
辰吉が記者会見に乱入
大阪城ホールは、山中にとってルーツともいえる場所だ。今から17年前。辰吉丈一郎が、シリモンコン・ナコントンパークビュー(タイ)をTKOで下してWBCバンタム級王者に返り咲いた伝説の試合が行われた会場だ。山中は、その試合に感動して、WBCの緑のベルトに憧れてボクシングを志した。今、そのWBCのベルトを腰に巻き、「リングに上がって見た大阪城ホールの景色は最高でした」という。 その伝説の辰吉が、リングサイドに座っていた。そして、試合後、控え室で行われていた勝利者会見の途中に乱入してきた。 「良かったやん。KOなんやから。文句言うことないよ。欲を持っていたらキリがない。勝ったということは、次できるということ。それ以上贅沢言うたらあかんよ」 反省を口にする山中をそう言って諭した。辰吉節である。今なお、現役ボクサーを続けている辰吉にとっては、この緑のベルトの奪還に照準を置いていることになるが、そのことを記者から聞かれると、「今のベルトは、山中君のもの。でも、おれは、あのベルトを取り返す。そうでないとやっている意味がない」と言ってニヤっと笑った。 理論家として定評のある辰吉は、山中の強さをこう分析してみせた。 「サウスポーの長所を生かしている。あの左はオーソドックスのボクサーからすると見えにくい。ノーモーションで出てくる。強いよ。そうでないと6回防衛でけへんよ」 自らのボクシング人生のルーツにある伝説のチャンピオンに「強い」と認められた山中は、どうリアクションを取ればいいのか困っていた。 さて、山中の今後である。6連続KOとなれば、具志堅用高氏の持つ世界戦の日本記録に並ぶが、山中は、「統一でも、海外でも、強い相手とやりたい」という気持ちを明らかにした。実は、ラスベガスでビッグファイトを続けているWBC世界スーパーバンタム級王者のレオ・サンタクルスにオファーを出したが断られた。帝拳の本田明彦代表は、「相手にメリットがない。アメリカのマーケットでは、山中に知名度がないのにサウスポーで強いんだから(笑)。今後は、バンタムの統一戦に照準を絞って交渉していきたい。IBFかWBAになるでしょう」と言う。 IBF世界バンタム級王者のスチュアート・ホール(イギリス)は、本国を出て試合をやりたがらない。先日、大場浩平(真正)との挑戦者決定戦で勝利したランディ・カバジェロ(アメリカ)が、そのホールと指名試合を行うが、カバジェロが勝って、新チャンピオンとなれば、IBFとWBCの統一戦が日本で実現する公算が高いという。またWBAも現在空位で王座決定戦を待つ段階。これも誰が新チャンピオンになるかで流動的だ。 いずれにしろ、ボクシングは、KOが魅力である。辰吉も「誰もが強いと認めるインパクトのある勝ちを積み重ねていくと、ボクシングの世界チャンピオンイコール、山中と呼ばれるようになるんやないか」という。辰吉が認めた“神の左”が、さらに上のステージでどこまで通用するのか。山中の強さを探求し続ける防衛ロードには、大きなロマンが詰まっている。 (文責・本郷陽一/論スポ、アスリートジャーナル)