【社説】中3殺害で再審 証拠開示が不当捜査暴く
不当な捜査と立証で冤罪(えんざい)がつくられたと言わざるを得ない。検察は強引な有罪立証をやめ、早期の無罪確定につなげるべきだ。 1986年に福井市で中学3年の女子生徒が殺害される事件が起きた。翌年逮捕され、殺人罪で懲役7年が確定し服役した前川彰司さん(59)は一貫して無実を訴え、裁判のやり直しを求めてきた。 名古屋高裁金沢支部は先週、前川さんの第2次再審請求で再審開始を決定した。名古屋高検は異議を申し立てず、確定した。 刑事訴訟法は再審開始について「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」があったときと定めている。再審公判では無罪となる公算が大きい。 前川さんは90年の一審判決で無罪、二審で逆転有罪となり最高裁で確定した。刑期終了後に再審請求し一度認められたものの、検察の異議によって取り消され、再度請求していた。 無罪判決や再審開始決定など、これまで裁判所が3度も有罪を否定した事実は重い。検察の異議申し立て断念は当然である。誤判を正し、無実の人を救済する再審制度の理念に立ち返るべきだ。 直接的な物証がない中、確定判決は「犯行を告白された」「血の付いた前川さんを見た」など複数の関係者の供述を有罪の根拠としていた。 犯行を告白されたという知人は当時、自身の覚醒剤事件で勾留中だった。 再審決定は、この知人が量刑の軽減や保釈など自分の利益のためにうその供述をした可能性があるとした。捜査が行き詰まっていた警察が、この供述を頼りに「他の関係者に、誘導などの不当な働きかけをした疑いが払拭できない」と断じ、一連の供述の信用性を一蹴した。 警察がこの知人に面会や飲食など通常では考えられぬ優遇をして、法廷で供述通りの証言をした別の関係者に結婚祝い名目で現金を渡したことも認定した。なりふり構わず、自分たちの見立て通りに犯人を仕立てようと画策していたのである。 検察に対しても「公益の代表者としてあるまじき、不誠実で罪深い不正」と指弾した。関係者供述に重大な事実誤認があると把握しながら、裁判で明らかにせず有罪主張を続けたとみる。 再審の決め手になったのは、裁判所の強い要請で検察が開示した287点の証拠だ。警察の捜査報告書などから確定判決を揺るがす当局の不当行為が明らかになった。もし開示されていなければ真実は埋もれてしまっていた。 再審無罪となった袴田巌さんの場合も再審請求で開示された証拠が決め手となった。 前川さんの最初の再審請求から20年以上が経過した。あまりに長過ぎる。証拠開示のルールを定め、検察の異議申し立てを禁止するなど再審法(刑訴法の再審規定)の改正を急がねばならない。
西日本新聞