鹿島の新監督に就任した“レジェンド”岩政大樹はチームを再建できるのか…タイ、岡山、東大などで経験と勉強を重ねた苦労人
自身のブログで、岡山へ移籍した理由を岩政氏はこう綴っていた。 「タイでの挑戦が思っていた以上に成果を挙げられていくうちに、鹿島を離れる際に描いたもうひとつの挑戦にも早く踏み出そうと思うようになりました。そしてそのタイミングで、まさに私が思い描いていたような挑戦をファジアーノ岡山からオファーしていただきました」 思い描いていた挑戦とは、すなわち「自分にしかできないこと」だった。鹿島で育まれた勝者のメンタリティーを伝授された岡山は、岩政氏が加入して2年目の2016シーズンのJ2戦線で6位へ躍進。決勝ではセレッソ大阪に0-1で惜敗したものの、クラブ史上で初めて臨んだJ1昇格プレーオフで悲願まであと一歩に迫った。 2017シーズンに関東リーグの東京ユナイテッドFCへ、選手兼コーチとして加入。同時に東京大学運動会ア式蹴球部コーチにも就任した岩政氏は、2018シーズンをもって現役を引退。指導者の道を本格的に歩み始めたなかで、昨年は上武大学サッカー部監督と同大学のビジネス情報学部スポーツ健康マネジメント学科准教授に就任した。 迎えた今シーズン。トップチームのコーチとして古巣に復帰した岩政氏は、新型コロナウイルス禍で外国人の新規入国が制限された影響で、ヴァイラー前監督の合流が開幕後にずれ込んだなかで、監督代行として公式戦5試合で指揮を執った。 リーグ戦では3勝1敗の星を残し、バトンを託したヴァイラー前監督が残り10試合となった段階で電撃的に解任された。ここにきて失速したとはいえ順位は5位。開幕前や夏場の補強戦略にも疑問符がつけられた状況での指揮官交代に、責任を負うのは監督ではなくフロントなのではないか、といった批判が沸き上がった。 そのなかで後任候補として、自身の名前が報じられた。ヴァイラー前監督の解任から一夜明けた8日早朝。自身のツイッター(@_PITCHLEVEL)を更新した岩政氏は正式発表を前に、火中の栗を拾う決断を下したとうかがわせるつぶやきを投稿した。 「みんなで前に進もう。みんなで新しい鹿島を創る。誰かが創ってくれるわけじゃない。みんなで」 逆風にさらされている苦境から鹿島をはい上がらせていく軌跡は、タイから岡山へ移籍したときの「私が思い描いていたような挑戦」にも通じる。ホームの県立カシマサッカースタジアムに福岡を迎える14日の明治安田生命J1リーグ第25節から、熱さと理論を思考回路に同居させる岩政新監督が注目のタクトをふるう。 (文責・藤江直人/スポーツライター)