やはり政治が悪い、古い人は自ら退くべきーー忖度しない経済作家、高杉良が語る日本
心を動かされる企業人、今はいない
高杉良、82歳。 19歳で業界紙『石油化学新聞』に入社。豪胆でフットワーク軽く、どんな企業や省庁にも物怖じせずに押しかけて取材を行い、ほどなく名物記者となる。記者時代は、大手新聞社を出し抜くほどの企業スクープを連発。1975年、当時の出光興産をモデルとした『虚構の城』で作家デビューをしてからは、働く人の目線に立った経済小説を数多く世に送り出してきた。 日産自動車、みずほ銀行、野村證券、ヤマト運輸、オリックス、アサヒビール……。日本を代表する大企業をモデルに、実名も織り交ぜながら描いたそれらの作品群は、どれもリアリティがあり、たびたび社会を騒然とさせた。 「いろんな人を見てきたけれど、一番すごい人物だと思ったのは、中山素平さん(日本興業銀行頭取を務めた銀行家)かな。彼の本はいくつか書いたんだけど、それを読んだ別の企業の広報から、『うちを取材して本を書いてください』っていう依頼が来るわけ。とりあえず会ってみて、話を一通り聞くんだけど、う~ん、小説にはならないな、と思う相手もいるわけよ。そういう時は、いつもはっきり断りました。僕、相手が誰であろうと、思ったことは平気で言うんです」 海千山千の企業人たち。取材を進める中で、ずいぶん手こずった相手もいる。 「最初は論理的に話をしてくれるんだけど、2回目以降は話が矛盾しだすんだよね。同行した編集者も『気をつけたほうがいいと思います』って言いだした。その後、その人は手先を使って、僕に嫌がらせみたいなことをするようになってね。毎晩、深夜に無言電話がかかってくるんですよ。だから寝る前に電話線を抜くのが習慣になった。あれは嫌だったなぁ」 取材対象者に暴力団関係者を紹介しようかと声がかかったこともあった。 「お断りしますよね(笑)。こういう仕事をしていると、本当にいろんな話が来る。でも僕が興味を持つのは、やっぱり生き生きとしたビジネスマン、リーダーたち。書きたいと心を動かされる人というのは、なかなか巡り合えないものなんです。今、モデルにしたい企業人はいますか?ってよく聞かれるけどね……いないかな」