災害や大切な人との死別、子ども同士や先生からのいじめ……トラウマをもつ子どもをさらに打ちのめす出来事
子ども同士や先生からのいじめが、心に大きな傷を残すことも
いじめはトラウマ的な影響を残すことがあります。いじめを受けた子どもの学習機会を奪うことにもなりかねないなど、その影響は深刻です。実際に、いじめはどのようにして起こるのでしょうか。精神科医の中井久夫氏によれば、いじめは3段階に分けられ、徐々に進行していくものとされます。 まず、最初の段階が「孤立化」です。ターゲットが選ばれ、その子が「いじめられる理由」がPRされます。周囲の子は危険を察知して離れるとともに、差別的感情ももちはじめます。被害者は過覚醒の状態に陥りやすくなります。 次に「無力化」です。被害者が反撃しようとすると、加害者が暴力など過大な罰を与えます。これをくり返すうちに、被害者に「抵抗しても無駄」という無力感が生まれ、自発的な隷属が始まります。 そして最終段階が「透明化」です。加害者に言われるがまま行動する被害者の関係が「あたりまえ」のものになり、周囲からは「仲間」のようにみえたりもします。被害者には、その関係性が永遠に続く逃げ場のないものと感じられるようになっていきます。 こうしたいじめについて大人に話したときに、「あなたに理由があるのでは?」と聞かれさらに傷つく、教師に話したがなにもしてもらえなかった、あるいはいじめがさらにひどくなるといった経験をしている子どもは少なくありません。 味方になってくれるはずの教師や親に理解されなかったことは、実際のいじめ体験以上のトラウマになることがあります。逆に、理解者や安全な居場所があれば、いじめのダメージは軽減されます。 また、臨床現場では、教師からさまざまな被害を受けたという訴えも聞かれます。ある程度、意図的な加害から無自覚なものまでいろいろですが、子どもどうしの場合と同様に、子どもが心身の苦痛を感じていれば、それは「いじめ」です。 刑事事件にはなりにくいグレーゾーンの「教師からのいじめ」は、いじめ防止法(子どもが対象)と、体罰を禁じる児童福祉法(親が対象)の狭間にあります。いじめ防止法に準じて、適正に扱われる必要があるでしょう。教師による「いじめ」を見ている子どもたちも傷ついています。見て見ぬふりをせず対応できるシステムをつくっていくことも重要です。 〈無理は禁物。子どもの心の回復のために、周りの大人がするべき聞き方・話し方〉へ続く
白川 美也子(精神科医・臨床心理士)