きっかけは「桃がもったいない」というシンプルな気持ち。珍しい桃づくしのコースに込められた意味は?
松本シェフいわく、フランス料理はもともと「無駄を出さない料理」。魚や肉は骨も捨てずに出汁をとってソースにするのが当たり前だから、規格外の桃を生かす方法もあるはずだと、ごく自然に思い至ったのだという。とはいえ、実際に「桃づくし」のコースを作るのは簡単ではなさそうだ。始めた当時のことをシェフに尋ねると「コースの全品に桃を使うと単調になってしまうのではないかという心配がありましたね。今は単調にならずにメリハリをつけるコツをつかみましたけれど」と教えてくれた。
「ラ ペ」で「桃コース」が楽しめるのは7月から9月中旬までの約2カ月半。内容は前期と後期で異なり、7月から8月はじめまでの「パート1」では和歌山県産の旬のピークの桃をコースの全品に使うが、8月上旬から9月中旬までの「パート2」では和歌山県以外の産地の桃と、更に他のフルーツも使用する。
写真の「紀州和華牛と桃のパイ包み焼き ブルーチーズソース」は、今年の「桃コース パート2」のメイン。かための桃のコンポートを牛ミンチで包み、さらにヒレ肉とパイ生地で包んで焼いた肉料理で、ソースは牛肉の出汁に赤ワインとポルト酒、フルムダンベール(ブルーチーズ)を加えて仕上げたもの。パイの香りと牛肉の旨み、桃の皮を噛むと弾ける甘い香りが絶妙で、芳醇なソースの中に潜むブルーチーズの塩気が桃の甘みを引き立てる。果物は皮と身の間においしさが詰まっているため、シェフは桃も焼いたり揚げたりするときは皮付きのまま使うそうだ。
同じコースのデザート「桃のコンポート ショートケーキ仕立て、ミントの香り」は、しっとりしたスポンジ生地と、桃のコンポート、マスカルポーネチーズ、シャンティークリーム、桃のコンポートのスライスを合わせたショートケーキ仕立てのデザート。スポンジ生地には桃のコンポートの煮汁が含まれているため、レモングラスやカモミール、ミント、フランボワーズの香りが爽やか。桃を知り尽くした松本シェフならではの一皿だ。