「自称ジャーナリスト」に騙されないために知っておきたいジャーナリズムの原則
ジャーナリズムの危機が叫ばれて久しいが、原因はどこにあるのか。米メディア界の精鋭たちが真剣な議論を重ね、いつの時代も変わらないジャーナリズムの「10の原則」を導き出し、今後のジャーナリズムとメディアのあるべき姿を提示したのが『ジャーナリストの条件 時代を超える10の原則』(ビル・コバッチ、トム・ローゼンスティール著/澤康臣訳)だ。ジャーナリズムを学ぶための基本書として世界中で読まれ、何度も改版して内容を磨き上げている。今回翻訳された最新第四版では、インターネットやSNSの普及によるメディア環境の劇的な変化も捉え、日本のメディアにとっても示唆に富む。毎日新聞社からBuzzFeed Japanを経て、今はフリーとして活躍し、『ニュースの未来』の著作もある石戸諭氏が、本書の読みどころを解説する。 *** フリーランスとして独立したばかりの頃である。誘われるがまま東京大学で非常勤講師の仕事を2年ほど引き受けることになった。「年の後半、ジャーナリズムをテーマに100分の講義を週1回担当してほしい。細かいテーマ設定は任せるが、例年マスメディアの実務経験者が担当しているので現場の話をぜひ盛り込んでほしい」――そんな依頼だった。 講義のために資料を読んでいて驚いたことがある。 ネットも含めたマスメディア志望の学生もいるだろうと思ったので、現代社会におけるニュースメディアやジャーナリズムとは何かを考えられるような一冊を相応の時間をかけて探してみたが、なかなか見つからなかったことだ。 一冊、あるいは一本にまとまった優れたジャーナリストによる優れた作品はたくさんある。継続的につづけ、社会にインパクトを与えた優れた報道もある。古典もあれば、今後の規範となるような最先端の報道もある。しかし、使い勝手がよく、教科書にふさわしい一冊がなかなか見つからない。 日本のジャーナリズム論の多くは記者の手柄話や成功に至るまでの取材の方法に¬焦点を当てたものが多く、しかも「古き良き過去の話」が多かった。メディア論として優れている本、時代を超えた良書はあるが、今度は現場の話やインターネットメディアの現状までカバーはできなくなってしまう。 あれこれ悩んだ結果、最終的に私は一から作っていた講義ノートをもとにニュースの基本形とは何か、インターネット時代の「良いニュース」とは何かを考察した『ニュースの未来』(光文社新書)という本を書くことになった。 もし、講義を受け持っていたとき本書『ジャーナリストの条件 時代を超える10の原則』(2021年版)が出ていれば、私はこれほど苦労することはなかっただろう。この一冊を紹介し、読んでおけば事足りるからだ。本書の完成度はそれほどに高く、少なくともニュースメディアで仕事をしている現役、ニュースを仕事にしようと思うプロを目指す層、あるいはSNSなどでマスメディアの報じ方を批判したいという人たちもまず読む必要がある。 ちなみに当時も2001年発行の初版が『ジャーナリズムの原則』(日本経済評論社)という邦題で出ることは出ていたのだが、まだ勃興したばかりのインターネットメディアについての記述がやや薄く、時代の経過を感じさせた。 今回の改訂版においてこれらデメリットは完全に解消されており、初版から貫かれている原則がより説得力を持って立ち現れている。 ※こちらの関連記事もお読みください。 誰もが情報発信できる時代に「信頼される」ための指針日米の違いを押さえて読むべき世界標準のジャーナリズム書