【ル ラボ】京都でしか出合えないおしゃれな金木犀の話
秋の涼しさがやっとやって来た頃、部屋の窓を開けて風を楽しむようになったんですね。朝、その香りで目が覚めるんですよ。香りの発信源は、集合住宅のエントランスに鎮座する3本の金木犀。今年は元気いっぱいで、甘い香りが風に乗ってぐいぐいと押し寄せてくる。 【写真】ル ラボの「オスマンサス 19」を詳しく見る 金木犀の一瞬の季節はパリやミラノコレクション期間中だったので、コロナ禍で出張ができなくなった数年は、東京で香るその素晴らしさを再確認したものでした。ところが。 満開の3本のキンモクセイの、濃厚でお砂糖山盛りな芳香に、今年はおなか一杯になってしまいまして。歳で自分の嗅覚の趣向が変わったのかもしれません。もう少し糖度低めでいいのに。そんな我儘を呟きながら静かに窓を閉じ、私の小さな秋はあっという間に終わりました。 ■ル ラボが解釈する金木犀とは? そんなとき、ル ラボの新作の名前を聞いて、アッと声が漏れました。「オスマンサス 19」。 Osmanthus、つまり金木犀。日本の香水市場ではワイルドカードとも言うべき金木犀に着手した英断にも驚いたし、金木犀をテーマにした香水は、調合のさじ加減によっては陳腐にもなるジョーカーだと思うから。 どきどきしながらノズルをプッシュして、香りをまといました。
ああ、ル ラボは金木犀をこう見たのか!という納得。金木犀と題しながらも、ル ラボが目指したのは、花の香りそのものではなく、そのスピリットなのだと膝を打ちました。 お香の煙が立ち上るような香り立ち。遠くに、青みのあるラベンダーを感じます。そして通奏低音のように深く漂うレジンの甘酸っぱさを残して、数時間でその姿を消してゆく。 結論から言うと、金木犀の輪郭はほとんど感じない。慎み深く、透明感のあるウッディ。要するに、こういうことなんじゃないかと思うんです。金木犀は夏と秋の移ろいを象徴するものでもある。早くあの花が芽吹いてほしい、風に乗って新しい季節の到来を教えてほしい。暦の節目に人生のリセットができるように感じるからこそ、次の季節を待ちわびるもの。大人になればなおのことです。でも一度花開いてしまえば、その芳香はほんのつかの間、気づかぬうちに金木犀の旬は過ぎ去ってしまう。移り行く刹那や情感、五感を研ぎ澄ましていないと見逃してしまう七十二候を端的に表現したはかなさこそが、この香りの骨格なのではないかと。