インド「ヒンドゥー教の国を脱却」した“民衆の力” 人民党はなぜ議席数を減らすことになったのか
かつて建国の父ガンディーや初代首相ネルーはイスラム教徒と共存する多様性の国インドを作った。これからのインドは、モディ首相という強力な指導者のもとで「ヒンドゥー教の国」へと変化していくことになるのか。核を保有し世界の大国となったインドの命運はインド式民主主義の行方に委ねられている。 インドの「底知れない」実力を探ってみた著書『底知れないインド 「最強国家」の実力』より一部抜粋・編集したものを3回に渡ってお届けする。最終回はインドの民主主義の課題についてまとめてみた。
■民主主義のDNA 2024年の総選挙は、与党インド人民党の獲得議席が240議席と過半数(272議席)を大きく割り込んだ。インド人民党を含む与党連合の国民民主同盟(NDA)としての議席も293となり、大きく議席数を後退させた。野党連合は国民会議派や地域政党が勢力を回復し、234議席を獲得した。 選挙の結果を総括するとすれば、「民主主義のDNAが機能し、インドがヒンドゥー教の国にはならなかった」ということだ。
長年の歴史で培われてきた民主主義というシステムが生きていて、行き過ぎた動きに歯止めをかけるバランサーとして機能した。 インド人民党はモディの時代に負け知らずの戦いを続けてきた。モディが2001年に西部グジャラート州の州首相に就任し、2002年の州議会選挙から3回連続で勝利し、インド人民党は州議会の単独過半数となった。 グジャラートの繁栄をインド全土にと訴えた2014年の総選挙で、インド人民党は党史上最多の282議席を獲得。モディ政権の続投を賭けた2019年の総選挙では、インド人民党だけで303議席を獲得する圧勝となった。
2024年も、モディは総選挙直前にインド人民党だけで370議席を獲得し、与党連合で400議席を獲得すると目標を掲げた。世論調査や出口調査の多くがインド人民党の圧勝を予測していた。 しかし、勝利を祝うはずのインド人民党の集会場に集まった党関係者の表情は暗かった。党の繁栄に掛け声をあげる、いつものシュプレヒコールも反応が薄い。 なぜ人民党は議席数を後退させることになったのか。強権的とも取られる権力の集中に対する警戒感が広まったのかもしれない。総選挙の投票直前には、野党有力指導者が汚職の疑いなどで逮捕されて長期間拘禁され、政権に批判的なメディアへの圧力も強まっていた。