驚きの共有空間「ピーススタジアム」を通して専門家が読み解く、長崎スタジアムシティの全貌
驚くべきは、これが運用しながらの偶然の産物ではなく、どうやら計画段階から見越したうえで計画されている点です。アリーナ単体としては余裕あるスペースが不足しており、ホテル棟には「パブリックスペース」がなく、オフィス棟や商業棟もコンパクトにつくられ、スタジアムと補い合わなければ成り立たないことを見ても、計画段階から補い合いを前提に各施設がつくられていることがわかります。 これはさすがにほかの施設では見たことがありません。一般的には複数の建物が寄り集まった場合、建物は自己完結できるように必要な機能や空間を持ちます。これは多くの複合施設の事例において施設ごとの事業者が別であるためです。 一方、シティ内の各施設が必要としているそれぞれの機能が外に出されて重なり合った部分がスタジアムとなったのがこのピーススタジアムとなっています。 それぞれ求めている機能は微妙に異なりながら「パブリックで余裕のある開放された空間」という共通点をもっていて、スタジアムの施設開放をもってこれらをすべて成立させまとめ上げています。ほんとスゴいです。
今回は長崎スタジアムシティをサッカースタジアムとして読み解くことでその全貌に迫りました。集まった各施設が互いに補い合うことで賑わいを生み、またスポーツイベントの際には一時的にスタジアムと連携することで魅力的な多機能複合スタジアムを生み出す仕組みとなっていました。これは大規模民間施設として成立した事例ではあるものの、お互いの協力と運用次第で都市そのものをスタジアムにできる可能性を示してくれたようにも思えます。課題は多いもののスポーツがより身近な存在として街に賑わいをもたらすヒントになるのではないかと考えます。 <了>
[PROFILE] 上林功(うえばやし・いさお) 1978年11月生まれ、兵庫県神戸市出身。追手門学院大学社会学部スポーツ文化コース 准教授、株式会社スポーツファシリティ研究所 代表。建築家の仙田満に師事し、主にスポーツ施設の設計・監理を担当。主な担当作品として「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」など。2014年に株式会社スポーツファシリティ研究所設立。主な実績として西武プリンスドーム(当時)観客席改修計画基本構想(2016)、横浜DeNAベイスターズファーム施設基本構想(2017)、ZOZOマリンスタジアム観客席改修計画基本設計(2018)など。「スポーツ消費者行動とスタジアム観客席の構造」など実践に活用できる研究と建築設計の両輪によるアプローチを行う。早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員、日本政策投資銀行スマートベニュー研究会委員、一般社団法人運動会協会理事。いわきFC新スタジアム検討「IWAKI GROWING UP PROJECT」分科会座長、日本財団パラスポーツサポートセンターアドバイザー。
文=上林功