驚きの共有空間「ピーススタジアム」を通して専門家が読み解く、長崎スタジアムシティの全貌
更に隣接するBリーグチームのホームアリーナである「ハピネスアリーナ」はパブリックビューイング施設となり、ホテル棟はスイート席やクラブラウンジになるなど、シティ全体の各施設がスタジアムを機能拡張するかのように連携し、普通のシンプルなスタジアムだったピーススタジアムは世界的にも類を見ない多機能複合化スタジアムとして一時的に変貌をとげます。 高度な施設運営計画とそれらを最低限の操作で実現するきわめて高いレベルの建築計画であり、興行・イベント利用に合わせて最もシンプルな状態からシティ全体に至るまで多機能複合化のレベルや範囲を変化させるスタジアムになっています。使い勝手で執務室にもフォーラム会場にもなるような自由度の高いフリーアドレスのオフィスなどがあったりしますが、スタジアムのような大規模施設において可動間仕切りのような大掛かりな設備を使うことなく、ここまで使い勝手を大胆に変化させる手法には正直脱帽です。 施設の維持管理が課題となるスタジアムの多機能複合化の課題ですが、大規模な多機能複合施設として運用されるのを興行の一時的な範囲にとどめ、普段は各施設を独立した施設として機能させている点は一体整備したスタジアムシティだからこそできる最大の特徴と言えます。
スタジアムがラウンジ? 補い合うことで成立する新たな手法
ここまではピーススタジアムを中心に見てきましたが、今度は各施設から見てみるとさらに印象が変わります。隣接するハピネスアリーナでのバスケ試合前のこと。このハピネスアリーナはBリーグ基準ながらも観客席規模は6000席と小さなアリーナで、売店や飲食のスペースも少なくコンコースの広さも最低限に留まっています。
このコンパクトなアリーナをどう運用しているのか不思議に思っていましたが、実際に見てみると、試合前、バスケットボールの応援グッズを持ったブースターたちはアリーナには入らず、開放されたピーススタジアムのコンコースに、飲食店舗に、観客席にと思い思いの場所を見つけて食事を楽しみ、来場者は様子を見ながら少しずつアリーナに入場していきます。 いわばスタジアムがアリーナのラウンジの役割を担っており、飲食サービスや混雑緩和などの機能を補っています。こうなると一見ミニマムに見えたアリーナは「日本最大級のラウンジとサービス機能をもったアリーナ」と180度見方が変わります。 こうした補い合う関係はアリーナ以外にも見られます。ホテル棟で言えば、一般的な高級シティホテルではレストランやカフェ、ショップや貸会議室などホテル宿泊者以外でも使用できる「パブリックスペース」が併設しているケースがよくあります。スタジアムシティのホテル棟にはそうした施設はありません。それを補うようにスタジアムのフードホールやコンコースに直接アクセスすることができ、「パブリックスペース」のような役割を担っています。オフィス棟や商業棟も同様で、オフィス棟にとってスタジアムはランチスペースやオープンな会議スペースに、商業棟にとっては休憩スペースや子どもたちの遊び場として機能しています。