「トラックドライバー = かわいそう」という欺瞞! 荷主&メディアの餌食にされるのは、いつも現場労働者である
「送料無料表示」「再配達」を隔てるもの
EC・通販における送料無料表示について、岸田内閣が推し進める「物流革新」政策では、見直しを検討していた。過去形で表現したのは、事実上、送料無料表示を容認することになってしまったからである。 2023年6月に政府が発表した「物流革新に向けた政策パッケージ」には、次のように記されている。 「運賃・料金が消費者向けの送料に適正に転嫁・反映されるべきという観点から、『送料無料』表示の見直しに取り組む」 だがこの主張は、同意見交換会に出席したEC・通販業界団体等から否定された。「送料無料が誤解を招くというのは根拠がない」というのだ。 そもそも、送料無料表示の撤廃(あるいは規制)については、消費者の間でも意見がわかれていた。「当然送料は必要なもの(発生しているもの)だから、無料表示はおかしい」という意見もあれば、「送料が別に掛かるようであれば、EC・通販での購入を控える」という意見もあった。 再配達の防止については、おおむね消費者の理解が得られていることを考えると、送料無料の見直しが消費者、そして業界団体に受け入れられなかったのはなぜか。 ポイントは、消費者やEC・通販事業者に痛みが生じるかどうかである。送料無料表示をやめることで、 ・売り上げが下がることを恐れた「業界団体」 ・見かけ上の負担が増えることを嫌った「消費者」 がこぞって反対をした。痛みを生じる行為に対し、人はどうしても非協力的になってしまうのだ。 「ドライバーがかわいそう」というモチベーション付けだけでは、痛みをともなう変化・改善への協力は得られない。「ドライバーさんもかわいそうかもしれないけど、私のほうがもっとかわいそうだから」となれば、多くの人(企業)は協力してくれない。 なお、送料無料表示の見直し見送りに関しては、運送業界を代表して同意見交換会に出席したはずのヤマト運輸、佐川急便、日本郵便らが、一様に送料無料表示の見直しに懐疑的な態度を取ったことも、大きかったと筆者は思う。 この3社には、運送業界を代表するという意識が乏しく、自社クライアントであるEC・通販業界団体への忖度(そんたく)を優先しているように見えるのは筆者だけだろうか。