豪雪地帯の山奥に「奇跡の集落」なぜ誕生? 若い移住者あつまる背景、ドイツ人建築家の古民家再生と集落の人々の”よそ者”への温かなまなざし
別荘地をつくりたくて、古民家を再生しているわけではない
現在、カールさんが事務所(まつだいカールベンクスハウス)を構える松代の商店街には、カールさんが再生した古民家が他に3軒、同地域の街並み景観再生事業で外観のみをカールさん風に再生した古民家が8軒、さらに今後カールさんが再生しようと購入した古民家が4軒あります。
かつてお菓子がつくられていた1階の菓子工場部分は、大きな吹き抜けのあるリビングへと生まれ変わった。
これは街ににぎわいを取り戻そうとカールさんが描いた1枚のパース画に、地元の人々が賛同し、十日町市が景観再生の助成制度を設けて後押ししている、現時点での成果です。「私は、別荘地をつくるつもりはありません」とカールさん。「お互いが名前も知らない関係なんて嫌じゃないですか」 なぜなら、カールさん自身が“古民家に住む”というよりは“古民家のある場所に暮らしたい”からでしょう。住むのではなく、暮らす。「だからここに移住してくる人には、みんなと仲良くしてほしいと思います」 約25年前にイエローハウスを購入し、今年の秋から竹所で暮らす吉田さんは「(購入した当時と比べて)何もかも変わりました。変わりすぎですよね(笑)。カールさんと初めて会った際に話したことは『一緒に、こういう集落にしましょうね』でした。まさにそうなっているんだなと実感しています」(吉田さん) 51歳で初めて竹所を訪れたカールさんも、今年82歳になりました。けれど、とてもそうとは見えないほど、まつだいカールベンクスハウスの2階への階段を颯爽と上りますし、現在抱えている再生案件のために精力的に動き回ります。 そういえば、ゲストハウスの中村さんは「本当はのんびり暮らせる移住生活を思い描いていたのですが、近くで草刈りをしていたおばあさんが80代後半だと聞き、私ものんびりとしている場合じゃないなと思った」そうです。 そんな話をカールさんに振ると「そうですよ、私も含めてここのお年寄りは忙しいんです(笑)」 今回の取材中、常に笑顔が絶えなかったカールさん。笑顔の絶えない人には、たいてい人が自然と集まって、同じように笑顔になります。カールさん自身はもちろん、カールさんの再生する古民家も、雪の中でも明るく見える、まるで口角の上がった家なのかも知れません。 ●取材協力 カール・ベンクスさん 建築デザイナー カールベンクスアンドアソシエイト有限会社 取締役。 1942年、ドイツ・ベルリン生まれ。絵画修復師の父の影響を受け、日本文化に関心を持つ。 ベルリン・パリで建築デザインオフィスに勤務。1966年、空手を学ぶために日本大学に留学。以降建築デザイナーとしてヨーロッパや日本で活動。特に日本の民家に強く惹かれ、ドイツに移築する仕事に携わる。1993年、新潟県十日町市竹所で現在の自宅(双鶴庵)となる古民家を購入、再生に着手する。1999年、カールベンクスアンドアソシエイト(有)を設立。 2010年、歴史ある旅館を買い取り再生。『まつだいカールベンクスハウス』と名付け、事務所を移す。2021年時点で、日本での古民家再生数60 軒に。 カールベンクスアンドアソシエイト有限会社
籠島 康弘
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