年末年始の「炊き出し」にも“物価高騰”の影響… 生活困窮者・路上生活者と「支援団体」それぞれが直面している“現実”とは
物価高騰により「ギリギリ」で生活していた人々が転落している
2022年以降、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う小麦・石油価格の世界的な高騰や、円安などが原因で物価が上がり続けている。 物価高騰は、生活困窮者や路上生活者を直撃している。「もやい」事務局長の加藤歩さんによると、食料配布に並ぶ人の数はコロナ禍の頃よりも大幅に増えているという。 「2020年には100人ほどであったのに比べて、最近では多い日には800を超える人が並びます。 すべての人の背景を把握しているわけではありませんが、2020~2021年には住まいのない人が多く並んでいたのに対して、最近では、家賃や水道光熱費を支払うために食費を切り詰める必要があって、食料を受け取りにくる人が多いよう思われます」(加藤さん) これまで家賃などは払い続けていたが貯金はできない「ギリギリ」の生活を過ごしてきた人々が、物価高騰によって日々の生活費をまかなうことができなくなり、困窮状態や路上生活の状態に陥っているという。 また、「TENOHASHI」相談員の幸田良佑さんも「物価高騰による不安から、少しでも生活費を抑えようと炊き出しを利用される方が増えていると考えています」と語った。 そして、物価高騰は支援団体の活動にも影響を及ぼす。「TENOHASHI」では、配布する弁当を従来の金額で調達することが難しくなったという。また、「もやい」も光熱費の値上がりにより、出費が増えている。 「小規模な支援団体の場合、活動を継続できないほどの影響が出ていると思われます」(加藤さん)
生活保護費の引き上げ500円は「スズメの涙」
生活保護や年金で暮らしている人々にとっても、物価高騰の影響は大きい。 12月17日には政府が生活保護費を1人当たり月500円程度増額する方針であることが報道されたが、この報道を受けて「いのちのとりで裁判全国アクション」や一般社団法人「つくろい東京ファンド」を含む複数の団体が合同で緊急声明「500円(0.7%)ではスズメの涙だ!ケチ臭いことはやめて、13%以上の大幅な生活扶助基準の引き上げを!」を発表した。 「例えば、都市部の単身高齢者の月額生活扶助費7万2000円なら、必要な引き上げ額は月9400円以上である。しかし、月500円だと引き上げ率はわずか0.7%。これではスズメの涙であり、余りに少なすぎる。 同様に物価高に苦しむ諸外国は2022年、2023年と大幅に生活保護基準を引き上げている。2年続けて12%ずつ引き上げたドイツ、同様に9%ずつ引き上げたスウェーデン、7%、14%と引き上げた韓国と比べても、わずか0.7%の引き上げ率とは、日本は、どこまでケチ臭い国に成り下がるのだろうか」(声明から) 幸田さんは、年末年始の閉庁期間には困窮者や路上生活者の宿泊場所を「TENOHASHI」のような民間支援団体が費用を持ち出しながら提供している現状がある、と指摘。「福祉事務所を臨時開所するなどして、年末年始の空白期間を埋める努力を行政には強くお願いしたいところです」と語る。 また、加藤さんは「制度をすぐに変えることは難しいが…」と前置きしたうえで、日々の生活に苦しんでいる人々にとって現在は「待ったなし」の状況だと表現する。 「家賃や光熱費を払う必要がある人々にとっては、食料支援だけでは追いつきません。行政による、緊急的な現金給付が必要だと考えます」(加藤さん)
弁護士JP編集部
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