合法化のせいで「違法大麻が蔓延」する皮肉な理由 大麻を合法化したNYでいま何が起きているのか
12トンもの無許可大麻を押収
その一方で、大麻使用者が増加するとともに、子どもの誤飲事故や、大麻使用者による交通事故が急増。さらに強烈な大麻臭が街中で発生するなど、諸々の問題が露呈している。さらに、NYが次のような急迫した事態に陥っているとの情報がある。 〈大麻ツーリズムが盛んになり、(NYが)オランダを越えて大麻観光の聖地になっている〉 〈“smoke shop”と呼ばれる無許可店舗が激増、一時は1500店を越え、NY市予算局が「年間最大1億5000万ドルに上る税収への打撃が懸念されると発表〉 〈これを受け州は無許可店舗に対する摘発を進め、2023年5月以降2万6256ポンド(約12トン)の無許可大麻を押収したと発表。しかし、事態は好転せず、より巧妙化した店舗や無店舗型販売が増加中〉 〈フェンタニルの過剰摂取による死者数が急増。NY市の死者数は2000年638人、2019年1497人、大麻を合法化した21年は2694人、2022年は過去最多の3000人強に及ぶ〉 〈2023年9月には、NY市でフェンタニル事件に巻込まれた乳幼児4人が中毒、1人が死亡という痛ましい事件が発生(市保険局発表)〉 NY州は景気対策や人種差別対策が、大麻合法化の主たる目的であると公言していた。しかし、その実態は多様な薬物の蔓延で取締りが限界に達し、やむなく大麻合法化に踏み切った他州の現状とさほど変わりない(いや、他州以上に酷いかもかもしれない……)。 しかも、どれほど厳密な管理体制を敷いてもトラブルが絶えないのは事実。合法化されたことで、大麻も課税されることになったわけだが、それを“割高”と感じる者も少なくなかった。そこで安価な大麻を販売する違法店舗が次々とオープンしている。当然ながら、無許可大麻が売れたところで税収増には繋がらない。 また、アメリカで社会問題化しているフェンタニルの被害についても、大麻を合法化することで減少に転じるとの声があった。だが、現実にはフェンタニルによる死者数は合法化以降も右肩上がりに増え続け、それどころか乳幼児が巻き込まれる悲劇も起きている。さらに、健康被害対策を強化しても、やはりマイナス面の影響が目立つことは否めない。 前回の記事についた興味深いコメントを思い起こさざるを得ない。〈一定の線を緩めるとその範囲は勝手に想像以上に広がるモノ。ソレが人間だと強く認識するべき〉〈大麻合法化で得られると謳われていたメリットが何も実現できていない〉。筆者はこうしたコメントに共感してしまう。皆さんはどうお感じになるだろうか。 第1回【NY州では“前科”を抹消…「大麻合法化」で社会はどう変わるのか 販売ライセンスに税金、罰則について元マトリ部長が徹底解説】では、合法化によって激変したNYの市民生活について報じている。 瀬戸晴海(せと はるうみ) 元厚生労働省麻薬取締部部長。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒。80年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。18年3月に退官。現在は、国際麻薬情報フォーラムで薬物問題の調査研究に従事している。著書に『マトリ 厚生労働省麻薬取締官』、『スマホで薬物を買う子どもたち』(ともに新潮新書)、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』(講談社+α新書)など。 デイリー新潮編集部
新潮社