孫文の歴史的演説から100周年…トランプ新時代に高まる「大アジア主義」の再評価
アメリカ国債とアジア経済への波紋
アメリカ国債の信用格付けを、三大格付け会社のうちスタンダード・アンド・プアーズとフィッチとの2社は最高位の「トリプルA」から既に1段階格下げしています。ムーディーズは「トリプルA」に据え置いていますが、昨年11月にアメリカ国債の格付け見通しを「安定的」から「ネガティヴ」へ引き下げています。ムーディーズが格下げしたら、アメリカ国債は「トリプルA」の格付けを完全に失い、「世界で最も取引しやすく安全な金融商品」とは言えなくなります。 そうなったらアジアに激震が走るでしょう。日本や中国などアジアの主要な国・地域が保有するアメリカ国債は、2024年9月に合計3兆ドル(約460兆円)を超え、アメリカ以外の国・地域が保有するアメリカ国債総額の35%に達しているとアメリカ財務省によって推計されているからです。 [ⅸ] しかし、恐怖と怒りによるファシズムの台頭に便乗して再選したトランプが、自分への忠誠心を基準に抜擢した閣僚たちによって構成される政権は、混乱を拡大しても収拾することはないでしょう。それどころか、生じてしまった混乱を新たな武器として、アジアへの攻撃に利用しようとするでしょう。 アジアの各国・地域は、トランプ政権の人種差別主義に基づくアジアへの攻撃と、それが引き起こす混乱とを乗り越えなければならないという未来(フューチャー)を共有(シェア)しています。その意味でアジアは“Asian Community With A Shared Future”つまり「アジア運命共同体」なのです。 孫文はちょうど100年前の「大アジア主義」演説で「現在の情勢は、中国と日本だけでなく、東アジアのすべての人々が団結して、アジアの以前の地位を回復することを示しているように思われる」と述べました。100年後の今、アジアのすべての人々は団結して自分たちのアジアを守らなくてはならないことを再び確かめなければなりません。 【註】本稿は、2024年11月28日にホテルオークラ神戸で開催される“孫文「大アジア主義」演説100周年記念シンポジウム”で講演する内容を敷衍し構成したものである。 [ⅸ] “Table 5: Major Foreign Holders of Treasury Securities”, U.S. Department of Treasury https://ticdata.treasury.gov/resource-center/data-chart-center/tic/Documents/slt_table5.txt
田代 秀敏(経済学者)