「その人らしさ」を交換するデジタル名刺・プレーリーカードとは?共同代表 坂木茜音さんインタビュー
アートの視点でデジタル時代のコミュニケーションに挑む
──プレーリーカードはどのようにして生まれたのでしょう? 起業までの経緯は? 私は「アサヒ荘」というクリエイターが集まるシェアハウスの管理人をしていて、スタジオプレーリーの共同代表である片山大地もシェアメイトです。 2021年の春、住人の一人だったアーティストがヨーロッパに行くことになり、何か贈り物をしようと思いついたことが、プレーリーカード誕生のきっかけになりました。 というのも、そのとき彼は自分の作品をプリントした名刺を100枚くらい印刷しようとしていたんです。本当にいい作品なのに、名刺だから上に名前を書かなきゃいけないのがもったいないなって、私は思いました。 私はクリエイティブディレクターやデザイナーの経験があり、片山はエンジニアリングができるので、2人で「スマホで読み込むと彼のInstagramが開くカード」をつくってプレゼントしたんです。 ついでにアサヒ荘のシェアメイト6人分のカードも一緒につくり、みんなで使っていたのですが、そのうち友達やクリエイター仲間のあいだで評判になり、次第に「私も欲しい!」という依頼がどんどん来るように。これがスタジオプレーリーのスタートです。 ──なるほど、最初は真心からのプレゼントだったわけですね。そこからニーズが見えてきた、と。 そうなんです。最初は友達の友達どころか、全然知らない人からも注文が来ることにびっくりしました。あまりの人気に「これはどういうことなんだろう?」と考えていくうちに、従来の紙の名刺の問題点に思い至りました。 これはコロナ前の情報ですが、日本人は年間で100億枚の名刺を使っている、しかも世界の名刺の7~8割は日本で消費されているというデータがあるそうです。 それに、名刺をつくる・渡す・管理するという流れも、よくよく考えてみると「個人の情報を一旦デジタル化して印刷、交換したら受け取った側がもう一度デジタル化して管理」と、遠回りしているようにも思えます。 しかし一方で、名刺交換という挨拶の文化は160年以上続いていると言われています。「出会いの瞬間に自分が持っているものを交換する」という意味合いもあるので、交流の形として蔑ろにしたくはありません。 なので、名刺交換の良い面と悪い面の両方をカバーできるツールをつくれたら、と思っています。 ──名刺交換という文化の良い面は踏襲しつつ、現状の課題をテクノロジーで解決にしようと思われたのですね。ビジネスとしての手応えも大きかったのでしょうか? はい、手応えは感じています。ですが、そもそも私はいわゆるスタートアップ業界にいた人間ではないので、なんだか不思議な感じもします。 私はもともと大学でアートを学んでいて、どちらかというと利益を出すことより創造的なことを考えていたい人間。でも、プレーリーカードをつくってみたとき、周りの反応からすごく可能性を感じ、「これが広がったら面白いことになる、やってみたい!」と思ったんです。 今になって振り返ると「何かを生み出す、社会に問いを投げかける」という、自分が深く共感しているアートの思想的な部分と、現在の仕事には共通点があると感じます。 これを一人でやっていたら、もしかしたらアートとして作品にしたのかもしれない。でも、経営メンバーの2人がビジネスパーソンとして優れた視点を持っていたおかげで、自分の「こういう社会になったら面白そう」「こういう問いを社会に投げかけてみたい」という思いをビジネスに昇華することができました。 ──スタジオプレーリーという場所と仲間ができたことで、坂木さんのアウトプットがアートからビジネスやプロダクトへと変わったのですね。もともとアートに対するスタンスとしても、ソーシャルな目線が強かったのでしょうか。 そうですね。「対社会へのメッセージ」というところはあって、大学時代は自然とデジタルを組み合わせることで、デジタル化が加速する社会への問いのようなものをテーマに作品を制作していました。 デジタル化というと、スピードアップや効率化のイメージが強いですよね。でも、プレーリーカードはむしろ逆を行こうとしているんです。 プレーリーカードによって、紙の名刺よりも自己紹介が長くなるという世界線をつくれたらな、と思っています。デジタル化への反発とも言えるかもしれませんが、削ぎ落とすことだけではない価値を提供したい。「話が盛り上がりすぎちゃうよ」って言われるくらいが理想です。