これぞ令和のすき焼き。極上肉×メレンゲ卵に胃袋つかまれる、虎ノ門のカウンターすき焼き店
豊富にそろうワインや日本酒と共に前菜3種を味わったら、いよいよ真打の登場である。関東では割下で肉やザクを煮る牛鍋が一般的だが、関西は鉄鍋に牛脂を溶かし、肉を焼き付けてから醤油なり、砂糖なりを入れて味付けするやり方が常套だ。が、最近は、この折衷型とも言えるスタイルも多く見受けられ、ここ「すき焼き あさい」も同様。料理長の廣瀬和也さんによれば「それぞれの良いところを取り入れたオリジナル」だそうで、割下で煮るのではなく、肉を焼き付けてから割下で味付け、昆布と鰹だしで調整している。
カウンターの目の前で、手際よく肉を仕上げてくれるのは、女将をはじめベテランの仲居さんたち。鉄鍋に牛脂を溶かし、肉→ザク→肉→ザク→肉→白滝の順で焼き上げていく。肉と野菜を別々に焼くスタイルは、どこか魯山人風すき焼きを思わせる。牛脂は、もちろん近江牛のケンネ脂。牛の腎臓回りについた脂で、熱に溶けやすくクセのないケンネ脂は、すき焼き用の牛脂としては最上とされているそうだ。
まず、最初に焼くのは4mm厚の肉。ちなみに、4mm厚は、3枚あるうちの1枚のみ。あとの2枚は3mm厚で、それも試行錯誤の末。「全部4mmにすると、さすがに量が多くて食べきれないお客様も多くて」と篠﨑さん。とはいえ、3mmのみだと4mmのインパクトに負けてしまう……というわけで、この形に落ち着いたとか。それでも、1人前で170gはあるというから、食べ応えはバッチリだ。
牛脂の溶ける匂いに、和牛ならではの甘やかな香りが追い討ちをかけ、いやが上にも食欲を刺激する。続いて割下が注がれるやジュワッという快音と共に立ち上る香気。鉄鍋の中でふつふつと肉に火が入っていく様子を目の前で体感できる臨場感もご馳走だろう。レア、ミディアム、ウェルダンと焼き加減はお好みで。それぞれのおいしさがある。
すき焼きに卵はつきものだが、同店のそれがまた一風変わっている。カウンターに置かれたのは、カウンターの向こうで女将が泡立てたメレンゲ状の卵。それも白身だけ。黄身はそのままメレンゲの下に隠れているのだから、お見事というしかない。聞けば、女将が以前勤めていたミシュランの星つきすき焼き店、赤坂「よしはし」(現在は閉店)のスタイルなのだとか。