『エイリアン:ロムルス』大胆不敵な戦略が張り巡らされた、シリーズ最大の異色作 ※注!ネタバレ含みます
※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。 『エイリアン:ロムルス』あらすじ 人生の行き場を失った6人の若者たちが、生きる希望を求めて足を踏み入れた宇宙ステーション“ロムルス”。だが、そこで彼らを待っていたのは、恐怖と言う名の絶望──寄生した人間の胸を突き破り、異常な速さで進化する“エイリアン”だった。しかも、その血液はすべての物質を溶かすほどの酸性のため、攻撃は不可能。宇宙最強にして最恐の生命体から、彼らは逃げ切れるのか?
幻となったニール・ブロムカンプ版
2009年にマーベルを買収して数多のアメコミ・ヒーローを掌中に収め、2012年にルーカスフィルムを買収して「スター・ウォーズ」という巨大フランチャイズを手に入れる。今や、ディズニーがポップカルチャーを牽引するリーディング・カンパニーであることに疑いを持つ者はいない。そして2019年には、713億ドルという巨額を投じて21世紀フォックスを買収。偉大なる「エイリアン」シリーズをも傘下に入れた。 考えてみると、「エイリアン」は非常に特異なフランチャイズだ。1作ごとに作家性の強いフィルムメーカーを招聘して、その独自性を思いっきり許容してしまうのだから。リドリー・スコットが静謐なホラーとして創り上げた『エイリアン』(79)。ジェームズ・キャメロンが火器満載のアクションに仕立てた『エイリアン2』(86)。デヴィッド・フィンチャーが宗教色を前面に押し出した『エイリアン3』(92)。そして、ジャン=ピエール・ジュネがキッチュな悪趣味テイスト全開させた『エイリアン4』(97)。 「ミッション:インポッシブル」シリーズも、初期はブライアン・デ・パルマ、ジョン・ウー、J・J・エイブラムス、ブラッド・バードと多士済々なメンツが演出を手がけていたが、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(15)以降はクリストファー・マッカリーが専任となって、シリーズを一手に引き受けている。今に至るまで1作品1監督路線を継続し、作風もバラバラな「エイリアン」は非常に珍しいシリーズといえる。 スピンオフとして『エイリアン VS.プレデター』(04)と『AVP2 エイリアンズ VS.プレデター』(07)、前日譚として『プロメテウス』(12)と『エイリアン:コヴェナント』(17)が作られたものの、長きに渡って「エイリアン5」の企画は宙に浮いていた。『第9地区』(09)や『エリジウム』(13)で知られるニール・ブロムカンプに白羽の矢がたったこともあったが、結局その企画は流れてしまう。 幻となったブロムカンプ版は、『エイリアン2』の直接的続編として構想され、『チャッピー』に出演していたシガーニー・ウィーバーをリプリー役として呼び戻すはずだった。『エイリアン3』以降のストーリーはガン無視して、ビショップ、ニュート、ヒックス伍長といったキャラクターも復活させる予定だったという。 ニール・ブロムカンプは言う。「シガニーには申し訳ないことをした。『エイリアン』を愛してくれた観客のために、人々が求めていたものを、そして私が求めていたものを満足させるような形で、シガニーともう1本映画を撮ることができれば、と思ったんだけど」(*1) そして、冗談っぽくこのようなコメントも付け加えている。 「リドリー・スコットが『チャッピー』を見て、“こいつに『エイリアン』は無理だ、もう先に進もう”と思ったのかもしれないね」(*2)