『エイリアン:ロムルス』大胆不敵な戦略が張り巡らされた、シリーズ最大の異色作 ※注!ネタバレ含みます
シリーズ全体を俯瞰する、破格のアプローチ
本作の序盤では、明らかに『エイリアン』を意識した作りがなされている。少人数のクルーが、密室空間でエイリアンと遭遇する設定。レトロフューチャリスティックなテクノロジー。ダークな映像の質感。そして、第1作に登場したアッシュ(イアン・ホルム)と同型アンドロイドのサプライズ出演。 だが物語が進行していくにつれ、アクション要素はマシマシとなり、演出もどんどんハデハデになって、『エイリアン2』を彷彿とさせる展開になっていく。宇宙ステーション壊滅のタイムリミットが迫るなか、取り残されたアンディを救出するために、レインがたったひとりでロムルスに引き返す場面は、連れ去られたニュートを助けるため、リプリーがコロニーに舞い戻る『エイリアン2』を明らかにリファレンスしている。シリーズのなかでも屈指の傑作と呼ばれるパート1とパート2を組み合わせることで、『エイリアン:ロムルス』は映画としての強度を高めようとしているのだ。 実際にフェデ・アルバレスは、製作中にリドリー・スコットとジェームズ・キャメロンからアドバイスをもらっていたという。ジェリー・ゴールドスミスによるパート1のスコア、ジェームズ・ホーナーによるパート2のスコアが劇中で印象的に使われているのも、両作に対するリスペクトを表したものだろう。 しかも、ケイがエイリアンを出産するというモチーフは、リプリーがエイリアンを胎内に宿すという意味で『エイリアン3』と共振しているし、ラストに登場する人間とエイリアンのハイブリッドは、『エイリアン4』のニューボーンを思い起こさせる。エイリアンから抽出された黒い液体は、『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』に登場したプロメテウス株だ。なんと、パート1とパート2以外にも目配せしているのである。 リドリー・スコット、ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・フィンチャー、ジャン=ピエール・ジュネといったクセ強フィルムメーカーたちは、己の作家性を高らかに誇示してきた。だがフェデ・アルバレスは、自分の特色を大きく打ち出すのではなく、味がバラバラな食材をひとつの皿に盛り付けて、シリーズの歴史を俯瞰するという荒技を繰り出してみせる。 かつて、クエンティン・タランティーノの作品を見たアルバレスの父親が、「この映画のどこが新しいんだ?」と尋ねたという。父はタランティーノが参照していたエクスプロイテーション映画に精通していたが、その歴史を知らなかったアルバレスには、タランティーノ映画が非常にフレッシュなものに見えた。27年ぶりに「エイリアン」を復活させるのであれば、トリビュート的手法はむしろ若い観客には新鮮に映るはず、という計算が働いていたに違いない。 おそらく近い将来、「エイリアン」はさらなる新作をリリースすることだろう。だが、“これまでのシリーズのいいトコロ全部乗せ”という禁断の技は、もう二度と繰り出すことはできない。『エイリアン:ロムルス』は、“続編映画マイスター”フェデ・アルバレスの大胆不敵な戦略が張り巡らされた、シリーズ最大の異色作である。 (*1),(*2)https://www.theguardian.com/film/2021/aug/21/neill-blomkamp-interview-demonic-chappie-alien (*3)https://www.youtube.com/watch?v=lCX8nmQ0MxI (*4)https://www.avpgalaxy.net/2024/03/21/fede-alvarez-alien-romulus-interview-round-up/ 文:竹島ルイ 映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。 『エイリアン:ロムルス』 大ヒット上映中 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (c)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.
竹島ルイ