Shopifyイベント「Editions.dev」に学ぶAIのEコマースへの活用(商品レコメンデーション、カスタマーサポートなど)と課題
カナダ・トロントで開かれたShopifyのイベント「Editions.dev」(2024年6月25日実施)の会場「Enercare Centre(エネケアセンター)」には、世界中から数千人のShopify関係者・開発者が集まり、最新のeコマース技術やトレンドについて議論を交わしました。 「Editions.dev」にはフラッグシップの社員が参加。そこから得られたShopifyのAI活用戦略、Shopifyアプリ開発者がAIをどのようにEC事業へ活用しようとしているかを解説します。
「Shopify Editions Summer 2024」で発表されたAI機能とは
「Editions.dev」前日に実施されたShopifyの新機能発表イベント「Shopify Editions Summer 2024」で、次のAI機能を公表しました。
・「Sidekick」が早期アクセスを開始:クーポン作成、ブログ下書きなど日常業務をサポート ・「Shopify Inbox」の進化:ビジネスを理解したAIが顧客への返信文を提案 わかりやすい言語でのセグメンテーション:・「Shopify Magic」を活用し、「ShopifyQLコード」を理解しやすい説明文に変換 「Shopify」の管理画面で利用できるAI・メディアエディタ:商品写真をプロ仕様の画像に変換
こうして見ると、Shopifyではコンテンツを生成したり、難易度の高い工程を簡素化したりする方向で、すでに生成AI活用が始まっていることがわかります。一方で、ストアフロント側の活用はまだそれほど進んでいない状況です。
AI活用が期待される3つの領域
「Editions.dev」では、アプリ開発者を中心としたラウンドテーブルセッションが行われ、AIを活用している事例やAI活用を検討しているアプリ開発者が意見交換をしました。 セッションでは、特に商品レコメンデーション、カスタマーサポート、バックオフィス業務の効率化におけるAI活用が話題の中心となりました。 ■ AIによる商品レコメンデーションの進化 話題になったのは、AIの活用によるパーソナライズされたレコメンデーション機能です。AIレコメンデーションアプリ「Wiser」(「Shopify」ストアの売上向上を支援するAIレコメンデーションツール。日本でも利用可能だがサポートは日本語未対応)を提供する企業のCEOが、平均注文額と顧客エンゲージメントの向上に貢献した実体験を紹介しました。 「Wiser」はAIによる「よく一緒に購入される商品」の分析とパーソナライゼーションでアップセルにつなげます。事例として、ある男性用化粧品サイトでは、AIが購買履歴や閲覧パターンを分析し、トリマーを閲覧した顧客にオイルなどの補完製品をおすすめすることで売り上げを伸ばしたといいます。購買履歴や閲覧パターンを分析することで、個々の顧客に最適な商品を提案しているそうです。 ■ AIチャットボットによる24時間顧客サポート カスタマーサポートの分野では、AIチャットボットの活用が話題になりました。AIがよくある質問への回答や注文状況の確認といった定型的な問い合わせに24時間対応することで、人的リソースを複雑な問題解決に集中させられるようになります。これにより、効率向上とコスト削減につながっているのです。 ■ バックオフィス業務におけるAI活用の可能性 バックオフィス業務においては、WMSとの連携における初期セットアップ、運用において外部システムと連携する必要があるという前提から、複雑な工程が発生しがちです。現地では「このように複雑な工程こそAIによる効率化の効果が大きく、多くのアプリベンダーが積極的に取り組んでいる」という話を聞くことができました。 一方で「現在の生成AIにはハルシネーション(誤った情報を生成してしまう現象)の問題があるため、失敗できないバックオフィス業務の効率化には、未だ課題が残っている」というディスカッションが行われました。 AIの進化と可能性に期待が高まる一方で、業務への深い理解が不可欠です。未経験のパイロットに旅客機を任せるような危うさを避けるため、段階的な導入と適切な検証が推奨されています。