祖父母が、孫の歓心を「お小遣いでつなぎ止める」と不幸を招く理由
孫の教育資金1500万円まで「非課税」の制度について
税制改正により、祖父母から孫に1500万円まで、教育資金を非課税で贈与できるようになりました。ジジババの間では「お宅、1500万円ある? うちなんか孫から督促されちゃったよ」などと、笑い話というにはやや微妙な会話が交わされることも増えているそうです。 日本銀行が発表した2023年の「資金循環統計」によると、家計の金融資産残高は12月末時点で、過去最高の約2141兆円。その60パーセント余りを高齢者が保有しているのです。教育資金の税制改正は、高齢者の潤沢な資産を若い世代へ贈与させ、社会に出回るお金を増やし、経済を活性化しようという狙いで生まれた制度です。 具体的には、教育資金に限って、祖父母がみんなで孫一人あたり1500万円まで非課税で贈与できるというもの。といっても話は単純ではなく、実際には信託銀行などに「専用口座」を作って入金しておき、必要なときに引き出す方式になっています(孫と祖父母の間で将来の教育資金を一括して贈与する契約を結ぶ)。対象は30歳未満の孫。引き出すときには、何に使用するのかが明確に分かるように領収書などを銀行に示すことが義務づけられています。 また、入金された1500万円は祖父母が亡くなった後も使えます。認められる範囲は原則として幼稚園、保育園、小中高校、大学などの入学金や授業料。また修学旅行、遠足の費用、さらには塾や予備校、ピアノ、水泳などといった習いごとの費用も認められます。 ただし、学校以外の支払いは上限500万円までと決められています。一方で下宿代、参考書代(本屋の領収書)は本当に学業のためかどうか見きわめがつきにくいので、認めないとされました。また、この制度は時限措置で、適用されるのは現在のところ2013年4月から2026年3月末までとなっています。 また、1500万円の信託預金が使いきれずに残った場合は、相続税よりも重い贈与税が課せられることになっているので注意が必要です。この制度発足の話を聞いて、私自身の考え方は微妙です。 「孫はかわいい。特に教育資金なら、実際に1500万円ものお金が余裕であるのなら快く支援したい」という気持ちがある一方で、孫の教育費を支援できる祖父母はいいおじいちゃん、おばあちゃんに。支援できない祖父母は、家族や周りから肩身が狭い......。そんな「格差の温床」になりそうな気がするのです。加えて、ただでさえ日本の子育てはお金がかかりすぎるという風潮を、さらに強くしそうな気もします。 文部科学省が発表した令和3年度の「子どもの学習費調査」によると、幼稚園から高校までの15年間にかかる授業料、教材費、給食費、制服代、習いごと・塾の月謝などは、すべて公立を選んだ場合でも約157万円、すべて私立を選んだ場合は約447万円かかるそうです。さらに大学に進学すると、卒業までの費用は国公立大学で481万円、私立大学(文系)で約690万円、私立大学(理系)で約822万円(大学の費用は日本政策金融公庫、2021年発表による)かかるそうです。 制度の是非はともかく、こうした教育費用の現実問題として、祖父母の支援が可能であれば、子どもや孫世代にとって大きな力になるでしょう。 この制度を利用するなら、その前に親子、孫(の年齢にもよりますが)が将来の教育とお金について十分に忌憚なく話し合うよい機会であると考え、そのうえでこの制度を利用するかどうか、それぞれの状況・事情に応じて、慎重に結論を出すようにすべきだと思います。