祖父母が、孫の歓心を「お小遣いでつなぎ止める」と不幸を招く理由
孫の欲しがる「ポケット」にならない お互いに不幸になる
前項の続きですが、こうしてしっかり孫に教育資金を残すのは生きたお金の使い方といえるでしょうが、それでもやはり、やたらと気前よく孫の顔を見るたびに「小遣いをやろうか」とお金を与えたり、高価なおもちゃを買い与えるのは控えるべきです。これでは買っているのは、孫の歓心のような気がします。 さて最近の子どもは、「シックスポケット」を持っているとのこと。両親のほかに父方の祖父母、母方の祖父母の計六人が、その子のためにお金をふんだんに使ってくれるというわけです。さらに、シングル(独身)のおじ・おばでもいれば、エイトポケットとかテンポケットと、孫に注がれるお金はさらに膨らんでいきます。 孫が生まれた頃は、仕事も現役で収入もたっぷりあったという人も少なくないでしょう。私にも孫がいますが、孫は子ども以上にかわいく、元気も運んできてくれます。それでつい甘くなり、孫の喜ぶ顔を見たい気持ちも強く、ねだられれば少々高いものでも「二つ返事」で買い与えてしまうのでしょう。 そのうちに、モノより現金を欲しがるようになり、それでも大甘のジジババは孫に会うたびに、ついお金を渡してしまう......。これでは、結果的に孫の心をお金でつなぎ止めていることで、孫を愛するという気持ちが卑しいものになってしまいます。お金をあげなくなったら、孫が寄りつかなくなった――。そんな寂しいことにもなりかねません。 「子どもを不幸にするいちばん確実な方法は、いつでも何でも手に入るようにしてやることです」 ルソーは著作『エミール』の中でこう言っています。これはある人に聞いた話の受け売りですが、イギリスでは貴族など上流家庭はわが子を親が育てることはしないそうで、「ナニー」と呼ぶ乳母が育てる習慣があるとのこと。母親が社交に忙しいこともありますが、どうしても甘やかしてしまうから、という理由も大きいと聞きます。食事もナニーと一緒に食べますが、子どもには贅沢な食事を与えず、わざと粗末で味もおいしいとはいえないものを食べさせるのです。 上流家庭の子弟が行く名門校は全寮制が普通で、ここでも徹底的に、粗末と言いたいくらいの質素な食事、暮らしをさせます。そうしなければ「骨のある人間」には育たないと考えているからです。 孫を不幸にしたくないのなら、孫の親、つまりわが子と話し合い、孫に与えるもののルールをつくるといいと思います。財布のヒモを締めることは、むしろ孫のため、孫への愛情でもあると、しっかり理解しましょう。 知人の場合は、現金をあげるのはお年玉だけ。あとは誕生日とクリスマスには予算を伝え、孫の希望のものを買ってあげる。ほかには入園や入学の節目だけ、ランドセルや机など必要なものを買う――と決めたそうです。 とはいえ、この取り決めでは我慢できなくなることもよくあるそうです。実は我慢できないのはジジババのほうで、孫に何か買ってあげたくて、うずうずしてしまうのです。そこで知人はただ一つ、買ってもいい例外を設けたそうです。 もちろん、親と相談のうえですが、例外に選ばれたのは本。それも毎回、一冊だけが約束です。「なんだか高い図鑑を買わされちゃったよ」などと口ではグチりながら、知人は自分が買ってあげなければ孫が読むこともなかっただろうと、けっこううれしそうな顔をしています。
保坂隆(精神科医)