押見修造「漫画を描くのは幼少期に抱えた傷の治癒行為」。『惡の華』『血の轍』にも通じる、映画『毒娘』前日譚の根底にあるもの【『ちーちゃん』インタビュー】
押見:私の漫画を描く理由は、自分の思春期の心の傷や閉塞感を癒すことにあります。もちろんノンフィクションではありません。たとえば『血の轍』は母親が主人公の人生を狂わせる物語ですが、「え、押見さんもそうだったの!?」と言われると違いますし。 ただ自分の漫画の主人公の少年たちは自分と近いものがあります。思春期の傷をあえて振り返り、漫画を描くことで、一種の治療効果が得られます。自分と同年代の人物を主人公にするやり方もありますが、私の場合はどうしても思春期の子どもになってしまいます。漫画を描くことが、私にとって思春期に抱えた傷に対しての、一種の治療行為になっています。 ―登場人物のキャラクター設定はどのようにしているのですか? 押見:どの漫画もいわゆるキャラクター設定はしていません。夜道を歩いたり、外を見ながら、「こういう場所にいそうだな」と想像するんです。自分の故郷に似ている場所が多いですね。あえて言語化せず、漠然と人物像をとらえ、「街のあの辺にいそう」と想像するんです。ちーちゃんは先に映画を見てから描いた漫画ですが、キャラクターを描く際はほかの漫画と同じように想像していました。
よく登場する川べりは思春期のころの逃げ場だった
―物語が展開する場所も気になりました。ほかの漫画も『ちーちゃん』も、川べりがよく登場します。どうしてでしょうか? 押見:思春期の苦しいとき、川べりは自分の逃げ場所でした。だからよく登場するのだと思います。今は故郷とは異なる場所に住んでいますが、『毒娘』の西八王子は故郷に近い雰囲気で、思春期にいた場所をほうふつとさせます。 『ちーちゃん』は依頼を受けて描いた漫画ではありますが、ほかの漫画と同じように「川べりにいそうだな」と感じています。個人的に、ちーちゃんはとても好きなキャラクターなんです。人間には良い部分と悪い部分があって、それを表面に出すのがちーちゃんなんですよね。漫画には、ちーちゃんのクラスメイトとして、正義感あふれる航大(こうだい)と航大に恋をしている優愛(ゆうあ)が登場します。最初は良い人に見えるのですが、ちーちゃんがそれをぶち壊すんですよ。