新浪剛史氏が「日本に“GAFAM誕生“必要ない」と断言する理由。インフレ時代の勝ち筋と戦略
「3.11」の経験が共助の原点
── 共助資本主義を打ち出した背景には、個人的な経験もあったのですか。 2011年、ローソンの社長時代に起きた、東日本大震災での経験です。 1つは、店舗のあった街そのものがなくなってしまったこと。コミュニティの再生なくして我々のビジネスは成り立ちません。だから、街がなくなったのならもう一度街をつくろう、店舗の人たちと一緒にやろうと全社を挙げて取り組んだのです。 企業ですから企業価値を上げなければいけませんが、そのために何をするのか。根底に流れる理念や意志が重要だと実感しました。 もう1つ印象に残っているのは、当時流れていたサントリーのTVコマーシャル。「上を向いて歩こう」と「見上げてごらん夜の星を」の2バージョンです。あれを見て、被災者の方々が心を打たれていたんです。正直悔しさを感じるほど見事だった。 企業の本性は、危機に直面したときに現れるものです。だからこそ、財務的な数値とは別の、目に見えないバランスシートが極めて重要になってくる。それが共助資本主義で重視している点です。 ── 目に見えない価値がより重視されるようになってきています。一方、業績向上と社会貢献の両立の失敗例としてフランス食品大手ダノン(※)の名前も上がります。これをどう見ていますか。 ※ダノンは社会と共存しながら経済成長を追求する企業として知られ、2020年6月には株主総会で圧倒的多数の支持を受け、上場企業で初めて、フランスの会社法に基づく「使命を果たす会社」となった。しかし株価が急落し、翌2021年3月にエマニュエル・ファベール会長兼CEOが解任された。 経営者が信頼を得るには、企業を成長させる力があることが重要です。出だしで利益を出せなければ、やはり経営者としてダメなんです。 でも実績を重ね、この人に任せれば価値が上がると信用されるようになったら、社会還元への投資を増やすこともできます。社会に還元すると実は業績も向上し、社会からの信用度も上がるという認識が広がってくれば、ボードメンバーに提案できるようになる。 その好循環をつくるために、経営者は業績向上と社会貢献の二項対立に悩み続けなければいけません。トレードオフをトレードオンに変えていく。そこが経営の難しいところでもあり、妙味でもあります。経営はサイエンスではなくアートなんです。