【特集「乗るなら今だ 心昂る、V8エンジン」⑧きっと特別!編】時代の変化が生み、育て、リタイヤしていった名機たちの物語を振り返る
4代目にしてついにV8エンジンを搭載。M3がもたらす新たな恍惚
環境意識が高まり大排気量車への風当たりが強い昨今。V8エンジンはときには潮流に逆らい、あるときは受け入れられるカタチに進化して人々に愛され続けている……というわけで、ここではかつてMotorMagazeine誌上で採り上げた「きっと特別!」なV8エンジンたちの物語にスポットを当ててみたい。 【写真はこちら】今も昔もV8は常に、クルマ好きのリアルな憧れを獲得してきた存在なのだ ── 西川 淳(全13枚) 1985年に2.3L 直4エンジンを搭載して登場したM3は、2007年の4代目では4L V型8気筒エンジンを搭載することになる。初代M3を知るファンからは「これがM3か」という声も上がったが、そのエンジンは先進的かつ高性能で「これこそ新しい時代のM3」と評価はぐんぐん上がっていった。 M3セダンのスタイリングは、乱暴に言ってしまえば3シリーズセダンのボディにM3クーペの前半分をドッキングさせたようなもの。クーペとセダンではデザインのテイストが全然違うだけに、正直最初はとくに違和感を強く覚えてしまった。 もちろん、本当はフェンダーなどの外板パネルはM3セダン専用品である。フロントオーバーハングはクーペに較べて35mmも長いが、3シリーズセダンとの比較では5mmプラスに過ぎない。リアオーバーハングは3シリーズセダンに対して44mm増し、一方M3クーペに対してはプラスマイナスゼロというディメンジョンである。 この新しいフロントまわりは、V型8気筒のパワーユニットを収めるために用意されたものだ。バンク角90度のシリンダーブロックは軽量アルミニウムシリコン合金製とされ、エンジン全体では先代M3の直列6気筒より実に15kgの軽量化を達成。 バルブトロニックでも直噴でもないが、代わりに各気筒独立のスロットルを持つレース直系の設計とされている。それでいてブレーキエネルギー回生システムも搭載しているのも、目をひくところだ。 その最高出力は420ps/8300rpm、最大トルクは40.8kgm/3900rpm。トランスミッションは現時点では6速MTのみとなる。このあたりは、すべてM3クーペと共通だ。 エンジンは相変わらず極上の滑らかさだ。そうは言っても走行距離はまだ1000km台中盤だけに、少しでも馴染みを良くしておこうと高回転域を保って走らせても、バイブレーションや音が不快に感じさせることはない。そうしろと言われたら、7000rpmキープだって構わないほどである。 動力性能を純粋に比較すれば、0→100km/h加速はM3クーペの4.8秒に対して4.9秒となっているが、それとて体感できる差ではない。 あとはM3ならではの恍惚の世界が待っている。それこそ指1本分の操舵にもリニアにラインを選べる操舵感や、凄まじく速いだけでなく右足の動きに正確なエンジンのピックアップ、優れたタッチと制動力を有するブレーキが織りなす走りの世界には、クルマと一体になれるライブ感が溢れているのだ。(文:島下泰久/Motor Magazine 2008年5月号よりダイジェスト。一部捕捉しています) 【BMW M3クーペ(2007年)主要諸元】 ●全長×全幅×全高:4620×1805×1425mm ●ホイールベース:2760mm ●車両重量:1630kg ●エンジン:V8DOHC ●排気量:3999cc ●最高出力:420ps/8300rpm ●最大トルク:400Nm/3900rpm ●トランスミッション:6速MT ●駆動方式:FR ●最高速:250km/h(リミッター) ●0→100km/h加速:4.8秒 ●車両価格:996万円(2007年当時)