安倍首相の米議会演説 アメリカはどう聞いたか?
安倍首相に厳しい一部の米メディア
その少数派の代表といえるのが、安部首相に常々厳しいことで知られるアメリカの一部のメディアの記者や編集者かもしれません。前日の記者会見にしろ、議会演説にしろ「失言はないか」と手ぐすねを引いて待っていたのではないかと思われます。このようなメディアが安倍首相を取り上げるときには、いつも「タカ派」「右翼」「ナショナリスト」など、否定的な形容詞が目立っており、中にはやや的外れな批判もあります。この論調に影響されたのか、ワシントンの知人の中でも安部首相に対する否定的な言説が少しずつ広がりつつあるような気がすることもあります。 今回も訪米演説前には各種メディアに様々な否定的な論調が掲載されました(その代表的なものが、首相の歴史認識を痛烈に批判した4月20日付けのニューヨークタイムズの社説“Mr. Abe and Japan’s History”でしょうか)。ただ、議会演説後、一時的かもしれませんが、安倍首相への批判は目立たなくなった感もあります。これなどは、演説がもたらした効果かもしれません。ワシントンの知人の一人は「“新聞で読んでいたタカ派の安倍は、実際は予想したよりも実直で謙虚で愛らしい人物だった”と感じた議員も少なくなかったであろう」と言っていました。
実際に見ていた人は多くはない
ところで、今回の演説がただ、これからどんな波及効果を与えていくかはまだ不透明です。外国首脳の訪問で一大ブームが起こったのは、1987年の旧ソ連のゴルバチョフ訪米が思い出されます。率直で明るく話す姿がアメリカのメディアに大きく伝えられ、「冷たい共産主義者の印象が大きく変わった」として一大「ゴルビー(ゴルバチョフの愛称)ブーム」が起こりました。当時はアメリカのマスメディアの花形である3大ネットワークの夕方のネットワークニュースがゴルバチョフ夫妻の訪米関連のニュースに多くを割きましたが、現在はメディア環境も国際関係も大きく異なっています。 今回の安倍首相の演説を報じたのは、3大ネットワークではなく、C-SPANというケーブルテレビの議会専門チャンネルでした。実際、演説をきいた私の知人のほとんどがC-SPANのインターネット同時放送でした。つまり、メディアが多様化する中で、日本やアメリカの外交に特別に関心がある少ない数の人がこの演説を視聴したという形になります。1980年代に比べると3大ネットワークニュースは視聴者が激減し、外交のニュースそのもの割合が少なくなっています。今回、安部首相の演説はCBSイブニングニュースなどが非常に簡単に扱っていただけでした。そもそも安倍首相は、同盟国の首脳であり、普天間移設問題などの課題はありますが、日米間に安全保障上の差し迫った大きな懸念材料がない中 、メディアにとっての目新しさはなかったかもしれません。