トップダウン型の組織を見直した米菓メーカー 従業員の案から生まれた「サステイナブルおかき」
表裏一体だった魅力と課題
父・忠さんからの打診もあり、山田さんは2011年、28歳の時に中央軒煎餅に入社します。3カ月間の工場研修を経て営業部長として配属されると、自社の魅力と課題が見えてきました。 「コツコツとまじめに働く方ばかりで、決められた業務にしっかりと向き合う姿勢が素晴らしいと思いました。一方で問題が起きた時などに上司の指示を仰ぐだけの姿勢が気になりました。当時はトップダウンの文化で問題なかったと思いますが、もう少し個人としての意見や提案が出ればと感じていました」 米菓の将来にも危機感を持ちます。若い友人に聞くと「自分では買わない」、「同年代への贈り物には選ばない」と言われました。 それまでも味やパッケージのリニューアルを重ねてきました。しかし、販路は全国の百貨店、駅ビル、量販店、スーパーと広範囲に及び客層が幅広く、ターゲットの絞り込みが難しかったのです。
バイヤーから浴びた厳しい言葉
2011年10月、定番ブランド「中央軒煎餅」とは別に高級ライン「桐乃坂中央軒」をリリースしました。 しかし、あるバイヤーからは「色んなところで買えるブランドを百貨店には置けない」、「手ごろなイメージの『中央軒』をブランド名から外した方がいいのでは」と言われたそうです。このころは催事販売にとどまり、百貨店に実店舗を持つことはかないませんでした。 中央軒煎餅は北海道や宮城県などの契約農家のもち米を使い、もちの製造から始めています。高品質な素材を使い、手間暇かけて作る職人の技術や味の良さには自信がありました。 それなのに手ごたえがなく、焦燥感を抱いた山田さんは外部のデザイナーに相談し、リブランディングに動きます。「生き残るには、ブランド全体の統一感に加え、高級感や希少性だけではない大胆な発想が必要と感じました」
「トキメキ」をテーマに新ブランド
山田さんらはターゲットやポジショニングを探り、贈答品の購入機会が多い30~40代女性をメインに据えた「オトナ女子のための新・おかきの時間」というコンセプトにたどり着きます。2018年、「桐乃坂中央軒」に代わるブランド「きりのさか」を打ち出しました。 看板商品には、過去に販売していた「玄米ちっぷす」を採用。商品部を中心に開発を進め、手土産にしたくなるパッケージデザインにリニューアルしました。「トキメキ」がテーマで、イメージカラーはピンク。華やかさや温かみを表現しました。 「米菓をここまで変えていいのか、という葛藤は常にありましたが、既成概念を取り払わなければとも考えていました。中央軒煎餅ブランドでは実現できないことを『きりのさか』で挑んだのです」 「きりのさか」は都内での催事やポップアップ出店で認知を拡大。渋谷、新宿、銀座などの商業施設に営業すると、バイヤーから「面白い」と支持され、数珠つなぎに声がかかるようになりました。 2019年にはイタリアの伝統菓子ビスコッティをヒントに玄米でつくった「リゾコッティ」を、2020年には前述のライスパレットを発売し、商品力を高めました。 一方でコスト上昇などが重なり、当時業績が悪化し始めていたといいます。山田さんは外部コンサルタントを入れようと提案。改革を続けるなら「今後の進退を決めてほしい」と役員から意見されたこともあり、2020年に社長に就任しました。