ドナルド・トランプの知られざる「敗北と栄光」、若い頃から貫く「戦い方の信条」とは
政治「未経験」でいきなり大統領、トランプの一貫した信条
その後も不動産開発で実績を積んだトランプ氏ですが、2000年に改革党から大統領選に出馬したものの早々に撤退します。そんなトランプ氏の名前が全国区になったのが、2004年から2015年までホストとして登場したNBCのリアリティ番組『The Apprentice』(アプレンティス)への出演です。 ニューヨークのトランプ・ワールド・タワーを舞台に出演者が出された課題にチームとして取り組み、最後にトランプ氏が「お前は首だ」という決め台詞を口にする番組で、元々高かったトランプ氏の知名度はさらに高まることとなりました。 その間、米国で起きたサブプライムローン問題などでトランプ氏の経営する会社は再び危機を迎えますが、ここでも危機を乗り越えながら政治の世界へと足を踏み入れることになります。 トランプ氏は比較的早い時期から大統領選への興味は示していましたが、それまでは立候補すると匂わせては撤回することを繰り返していました。トランプ氏が大統領選挙への出馬を初めて表明したのは1987年のことです。 その際にはいくつものマスコミの取材を受けながら最後に「特集用のスクープが欲しいだろ?あげるよ。私は出馬しない」と言って驚かせています。当時のマスコミにとって、それはさほど意外なスクープではありませんでしたが、トランプ氏は「でも、もし出馬すれば勝つ」(『NEWSWEEK』2015.9.29 p29)と付け加えることも忘れませんでした。 言わば、大統領選挙が近づく時期の風物詩ともなっていましたが、2015年の出馬表明は本気でした。米国ではそれまで実業家から転身して大統領になった人はいませんでした。トランプ氏も最初は知事選か上院議員選に出馬して、その後、大統領選挙に出るべきだと忠告されますが、いきなり大統領選への出馬を決意します。 「大きく考えろ。シングルヒットを狙うな。ホームランを狙え」 (『トランプの真実』p89) これがトランプ氏の信条だからです。大切なのは思考のサイズであり、「どれだけでっかく考えられるかが、どれだけでっかく成功できるかを左右する」というのが若い頃からのトランプ氏の考え方です。 とはいえ、それは「政治の常識」に反するものだけに、当初、共和党内でさえ泡沫候補と見られていたトランプ氏ですが、結果的に共和党の戦いを制して大統領候補となり、さらにヒラリー・クリントン氏という強敵を相手に勝利。見事に大統領となります。 トランプ氏の大統領1期目に関してはさまざまな評価がありますが、経済運営に関してはトランプ政権の4年間で米国株は大きく上昇しています。その原動力となったのはトランプ政権による減税策であり、米連邦準備理事会(FRB)の利下げです。世界的なコロナ禍でも積極的な金融・財政政策をとったことがその後のハイテク株の上昇につながったと言われています。 大統領就任時、トランプ氏は「史上最高の雇用創出大統領になってみせる」(『トランプの真実』p15)と経済運営に大きな自信を見せていますが、米中貿易摩擦などの問題を乗り越えたことは評価されています。 一方で国内では激しい対立や暴力的行為、さらには訴訟など多くの問題も生んでいますが、大統領選挙でバイデン氏に敗れた後も「トランプの時代」を懐かしむ声も多く、それが今回の「返り咲き」につながったとも見られています。今回の大統領選挙の勝利が確実になった後、トランプ氏は「米国を再び偉大な国に」と述べていますが、これからの4年間、再び世界はトランプ氏の「米国第一」と対峙することになります。 栄光を手にしては敗北し、再び立ち上がって栄光を手にする、トランプ氏が次に手にするのは「栄光」かそれとも「敗北」でしょうか。
〔参考文献〕
執筆:経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥