ドナルド・トランプの知られざる「敗北と栄光」、若い頃から貫く「戦い方の信条」とは
「不動産王」の願いが形になった「トランプ・タワー」
1980年、グランド・ハイアット・ホテルはオープン、トランプ氏の不動産業者としての地位は徐々に確立しますが、その名声を確固たるものにしたのが1983年にオープンしたトランプ・タワーです。 マンハッタンのアパートで暮らし始めた頃からトランプ氏はニューヨークの5番街と56番通りの角にある、ブティックのボンヴィッド・テラーの入る11階建てのビルに注目していました。 面積も広く、ロケーションも良い場所で、トランプ氏はニューヨークで一番価値のある建物とまで評価していました。「最高の土地に最高の建物を建てたい」というのがトランプ氏の願いでした。 トランプ氏はビルを所有するジャネスコ社のトップ相手に数年に渡って手紙を出し続けますが、進展はありません。そんなある日、同社が深刻な財政難に陥り、CEOが交代したことを知ります。 トランプ氏は朝一番に電話をかけて、30分後に会うという迅速な行動により、建物と借地権を2,500万ドルで購入するという契約を結びます。 さらにトランプ氏は借地権を所有する会社との提携にも成功。隣接するティファニーから空中権を取得するなどして、トランプ氏が望む高層ビルが建てられるだけの用地を手に入れます。 結果、1983年に高さ202メートル、58階建ての「トランプ・タワー」は完成することになりますが、その間、トランプ氏はあらゆる手練手管を使っています。 トランプ・タワーの建設に際し、トランプ氏は華麗さを売るために、お金に糸目をつけないと決意します。お金持ちが住むに相応しいアパートを作り、階下には一流の店がずらりと並ぶアトリウムを作る。さらに販売にあたっては、当時、結婚したばかりのチャールズ皇太子とダイアナ妃が購入したのではという噂に対して、噂を肯定も否定もしないことで、その価値を高めます。トランプ氏はこう語っています。 「悪い評判より良い評判の方が好ましいには違いないが、商売をする上から言うと、何も言われないより悪く言われた方がまし」 (『トランプ自伝』p204) 最終的にトランプ・タワーは、「ニューヨークで完成された屋内公共スペースのうちでも最高のもの」(『トランプ自伝』p217)という評価を得て、若き不動産王として名をはせていくことになります。