「世の習慣に縛られることなく、自分の人生を送ってほしい」...女優だった妻の「遺言書」と夫が至った「ある境地」
妻に看取られて、あの世に送ってもらえる─なんの根拠もなくそう考えている人も多いのではないか。でも人生はままならない。ひとりで暮らす先人たちの知恵に学ぼう。 【画像】なぜこんなに違いが?都道府県別「がんの死亡率・罹患率」ランキング 前の記事『「ファミリーヒストリーを作る」...シンガーソングライターの嘉門タツオさんが妻の死を受け入れられるようになったきっかけと「65歳で抱いた夢」』より続く。
のびのびと生きる
元参議院議員で、その前に西武百貨店の社長も務めた水野誠一さん(77歳)は'19年、妻で女優だった木内みどりさん(享年69)を急性心臓死で亡くした。あまりに突然のことだった。しかし、東日本大震災の年に彼女がしたためていた遺言書が水野さんの背中を押した。 「『世の習慣に縛られることなく、自分の人生を送ってほしい』と書いてありました。みどりは自分が亡き後も、私たち家族にのびのび生きてほしいという思いがあったのでしょう。だから娘も私も悲しみに縛られることはみどりの願いに反すると考え、前向きに生きていくことに決めました」 水野さんが最近凝っているのは料理だ。みどりさんが生きている頃には台所に立つことなどなかったが、必要に迫られ自分で作ってみるとのめり込んだ。麻婆豆腐やカレーなどシンプルな料理がが得意だという。 「料理も極めようと思うと相当おもしろい。意外な食材を探し求めてみたり、新たな調理法を考えてみたり、結構楽しめる」 趣味にかける時間も大切にしている。 「私たち夫婦はクラシックカーが好きで、妻がイセッタというマイクロカーを残して逝きました。その車をメンテナンスして娘と一緒にクラシックカーラリーに参加したりしています。 あと私は鉄道模型や絵を描くことも再開したいのですが、まだやり残した仕事もあり、時間がいくらあっても足りないくらいです」
好奇心さえあれば
水野さんには気付いたことがある。好奇心を持ち続けていれば、老いることなくいくつになってもひとり楽しく過ごせるということだ。そんな暮らしが、新たな出会いも運んでくれる。 「実は新しいパートナーができて、再婚するかもしれません。みどりのことだから輪廻転生じゃないけど、もう生まれ変わる準備をしている気がするんですよね。だから、いつまでも過去にとらわれているのもよくないなと思いまして。 好奇心があって、自分の意見があれば、必ず共感してくれる人が見つかるし、それが親しみに変わることもあります。思えばみどりともそうやって出会ったんですよね。自分の世界を持っている人に、人は集まってくると思うんです」 ひとりで歩き出せばこそ、新たな出会いも生まれる。やもめ暮らしも捨てたものではない。 「週刊現代」2024年6月8・15日合併号より ・・・・・ 【もっと読む】亡くなる3日前に…俳優・中尾彬さんが30年来の友人に電話で伝えていた「最期の言葉」
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