県庁の〝手のひら返し〟で大損した民間企業が激怒「『契約書準備してます』っていうから発注したのに…」いきなり大量キャンセル、契約前なら行政は許されるの?
新型コロナウイルス禍真っただ中の2020年4月、長野県松本市の企業は、県からこんな打診を受けた。 退学希望者が続出「幻滅大学」の酷すぎる実態 コロナで浮き彫りになった格差 20年
「医療用防護服、8万着購入することを検討している」 その後、やりとりを続ける中で、長野県はこんな書類を企業に渡した。 「物品購入状況説明書」だ。企業からの調達を前提に、県の担当部署が「契約書等を準備しています」という内容が書かれていた。 ところが、長野県が医療機関に問い合わせた結果、意外に需要が少ない。県はあわてて「5万着はキャンセル」と伝えた。ただ、企業側は困った。既に調達先に発注してしまっているためだ。企業も調達先にキャンセルしたい旨を伝えたが、応じてくれたのは2万着だけ。このままでは、残りの3万着分を損することになる。 長野県にも言い分はある。企業とはまだ正式な契約を結んでいなかった。 それでも、企業はこの状況に黙っていなかった。長野県を相手取り、1億3千万円の支払いを求めて提訴。2月になって長野地方裁判所は判決を出した。2年半に及んだ法廷闘争は、結局どうなったのか。(共同通信=滝野瀬雅史)
この裁判の争点は、「物品購入状況説明書」の解釈になった。「契約書を準備しています」という内容の文書を相手に出したことが、有効な契約と言えるのかどうか。そして、企業側に期待させた県の対応に問題はなかったのか。 長野地裁の判決はまず、契約の有効性は否定した。 「本来は契約書を作成するはずなのに作成しておらず、県が交付した「物品購入状況説明書」にも公印がないなど、契約書の要件を満たしていない」 このため、売買契約は成立していなかったと判断した。 判決は一方で、長野県の対応の問題性も、こんな風に指摘している。 「長野県が交付した書面は前例のないものであった上、対外的に大きな権限を持つとされる副知事自らが陣頭に立って交渉に乗り出していた。また、防護服の単価や枚数など具体的に協議していた」 こうした点などを考慮し「長野県は契約を成約させるべく行動していた」と認定。その上で、長野県がキャンセルした原因は、需要見込みの誤りや部署間の連携不足にあると判断した上で結論を導いた。