「透明人間」をなくす方法 医療的ケア児の付き添い問題 #令和の人権
透明人間はどのように生まれるか
特別支援学校には専門職である学校看護師がいる。彼らは保護者の代わりにならないのか。 中井教諭は「学校看護師さんといっても、全員に小児の経験があるわけではない。(人工)呼吸器を見たことがない、重度の肢体不自由の子と関わりがなかった方もいます。そもそも当時は採用の段階で『呼吸器の子をみてもらいます』という形になっていなかった」と説明する。 一方、「お母さんたちは本当にすごい」と中井教諭は語る。
「子どものちょっとした動き、たとえばどこに汗をかいているか、といったことでその日の体調を把握できたりする。そのレベルを教員や普段の様子を知らない看護師が やるのはなかなか難しい」 そうなると、どうしても保護者の付き添いに頼ることになってしまうのだという。一方で、教員たちの一番の仕事は子どもたちを指導し、成長させることだ。「成長のために、ぼくたちは常に母子分離をさせたいと思っている。でも付き添いがあることは前提となっている。そうなると、出てくる言葉が『気配を消してください』になってしまう」
大切なのは保護者との信頼関係
中井教諭を中心に、学校内の取り組みは着実に進んでいった。子どもたち一人ひとりの「支援確認表」を作り、その支援確認表をベースに「登校したときにどんな状態か」「どういう状態になったら保護者を呼べばいいのか」といったことを当日確認する資料を作成した。また、日常的に子どもたちのケアをおこなっている外部の訪問看護師が学校内に入り、学校看護師に対してレクチャーする機会なども積極的に設けた 。その結果、2021年度中には 、ほぼ付き添いを解消できたという。
重要だったのが、鈴木さんをはじめとする保護者との信頼関係の構築だ。中井教諭は取り組みがどこまで進んでいるのか、その途中経過をきちんと保護者に報告することを徹底した。 「学校って、どうしてもまだ決まっていないことを伝えることを避ける。それでは、時間がかかる案件は、いつまでたってもどこまで進んだかが保護者にはわからない。だから、『先週に会議があって、こんな課題が上がったところで止まっている。次の会議はいつだから、その時までは先に進まない』といったことを伝えるようにした」という。 さらに、「今はダメだけど、どうしたらできるか」ということを報告に付け加えることも欠かさないようにした。学校だけでできることなのか、それとも教育委員会への働きかけが必要なのか、はたまた法律の問題なのか。「クリアしなければいけない問題は何なのか。そこを共有することで、保護者とタッグを組めるようになった」と振り返る。 保護者の側も学校が少しずつ変化しているのを肌で感じていた。呼吸器生活向上委員会の代表として、学校とともに付き添い解消に取り組んだ鈴木さんは、「親が学校を支える側になることも必要だと思うようになった」という。