哲学研究者・永井玲衣さん、最新エッセイ集を語る「哲学とは『よく見ること』。常に同時代の中で見えてくるものに呼応するように書きたいし、書かざるを得ない」
【著者インタビュー】永井玲衣さん/『世界の適切な保存』/講談社/1870円
【本の内容】 「哲学対話」という場で、人々の問いと言葉に耳を傾けてきた著者。本書は、そんな著者が世界と向き合い、もがく日々をつづった一冊だ。《どんなに記憶しようとしても、わたしたちのよくわからない何かは、適切に保存することはできない。だからわたしは、思い出せないということを書く。何かが失われたということを書く。適切に保存ができないということを、くり返し、くり返し、書く》──(本文より)。世界から目をそらさず、真摯に向き合い続ける著者が紡ぐ哲学エッセイ。 世界を適切に保存したいというつよい思いが永井さんにはある。その思いは、世界は保存されないもの、失われていくものに満ちているという感情とともにある。 「『水中の哲学者たち』という本が出る前に誰も見ていないブログを書いていまして、『世界を適切に保存する』というのはその中でも用いていた表現です」 ひとつの言葉が別の言葉の記憶を引き出し、新たな意味が立ち上がる。世界の見え方がみるみる変わるような瞬間が、本にはいくつも書き留められている。 前の本はブログ連載だったが、今回の本は文芸誌『群像』に連載されたもので、「書けない」と題した章もあり、毎月、締切にあわせて書くことのたいへんさをしのばせる。 「そうですね。ガザのこと(虐殺)があったときは書けなくなって、連載が1回中断しています。私は体系立てて書くことができないんですね。原稿を書き始めるときは何も決まっていなくて、適切に保存したい瞬間だったり、誰かの言葉だったり、いくつかの断片が小石のようにあって、書いているうちにつながっていくような書き方をしています。自分が十数年続けている『哲学対話』の活動は、他者との予期しないかかわりの中で言葉を見つけたりするんですが、書くという行為もきわめてそれと近いです」 身近な話題や、友だちとの何気ない会話などから、回を追うごとに、どんどん深いところへと掘り下げられていく印象がある。震災や戦争など、いまの私たちを取り巻く社会的な問題も多く取り上げている。 「哲学というのは『よく見ること』だと私は思っていて、常に同時代の中で見えてくるものに呼応するように書きたいし、書かざるを得ないです。だから『ここでそろそろ戦争の話を書いておこう』とかいうことではなく、自分自身にとってアクチュアルなものが前に出てきてしまうところはあります」
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