10代で結婚が唯一の幸せ? インド最貧州のサッカー少女ギタが、日本人指導者と出会い見る夢
13歳になったギタは夢を見る
「子どもの幸せは結婚にある」と信じていたギタの両親にも変化が見られるという。当初態度にこそ出さないがサッカーをすることを歓迎しているとは言い難かった母親は、前向きに努力するわが子の姿に少しずつ協力的になり、2回目のYuwaスクールへの遠征には「自分も行きたい」と帯同した。 「一緒に施設やサッカー指導やさまざまな教育を行っている場所を見て、これまでほとんど村から出たことがなかったから知らなかった世界があるということに何か感じるものがあったようです」 活動開始当初は、人身売買を疑う両親に説明に行ったり、家事をさせる時間を奪われるという苦情に対して萩原自身が食器洗いに出向いたりすることもあった。 しかし、ギタが徐々に自分が触れられる世界、知覚できる未来を広げていったように、ブッダガヤの子どもたち、女の子たちは徐々に太陽が昇っている時間にも夢を見るようになった。 FC Nonoでは今年、ブッダガヤからインドサッカーの聖地・コルカタまでの約500kmをドリブルで走破するギネスチャレンジなど、ジェンダー平等と草の根のスポーツの重要性を伝えながら、子ども達の日本遠征の資金調達のためのさまざまな計画を準備している。 ギタは夢を見なかった。しかし、13歳になった現在、ギタは自分の未来に夢を見ている。 法律が変わり、時代が移り変わり、半世紀以上を経ても厳然と変わることのなかったブッダガヤの閉ざされた強固な価値観が、サッカーというスポーツを通じて見るようになった「ギタの夢」によって徐々に変わり始めている。 <了>
[PROFILE] 萩原望(はぎはら・のぞむ) 岡山県出身。3歳からサッカーを始め、大分トリニータU-18、立命館大学でプレー。大学卒業後は2016年にトヨタ自動車に就職するも、国際協力への強い思いから会社を辞め、国際協力NGOに就き、2020年からインド・ブッダガヤの農村開発プログラムに携わる。2021年にFC Nonoの活動を本格的にスタート。2022年からは、同インド・ハリヤナ州グルグラムにある会計監査法人Ernest&Young(EY)インド法人勤務に職を移し、FC Nonoのクラブ運営を継続。2024年3月から本業としてFourth Valley Concierge Corporationにて南アジア人材の就業支援を行う事業に従事。
文=大塚一樹