10代で結婚が唯一の幸せ? インド最貧州のサッカー少女ギタが、日本人指導者と出会い見る夢
10代前半での児童婚・性差別・人権問題……インド最貧地域の社会課題
「インドの経済的発展は目覚ましく、首都ニューデリーをはじめとする主要都市はビルが建ち並ぶ見慣れた光景でした。しかし、ビハール州、ブッダガヤと都会の喧騒から離れるにつれて発展するインドの一部だけを見ている分には気づかなかったさまざまな問題が見えてくるようになりました」 ビハール州は、インドの中でも貧困層が多く居住する地域で、インド政府の統計機関によると、インドで最も貧しい州とされている。中でもブッダガヤはその名に“ブッダ”を冠するように、2500年前に釈迦が悟りに達した聖地として多くの仏教徒が訪れる観光地としての一面を持つ一方、昔ながらの決して効率的とはいえない農業に従事し、粗末な藁小屋で夜露をしのぐ貧困層も少なくない街でもある。 「そういう地域ですから、子どもたちは十分な教育も受けられず、識字率も低く、児童労働、児童婚、性差別といった社会問題が、問題や課題として目立たないくらい普通に存在していました」 インドの地方部では、かつてのヒンドゥー教による身分制度、カースト制がいまだに根強く、実際、萩原が開いたサッカースクールに通う子どもの9割以上が、最下層のダリット(不可触民)に属している。インドでは、1950年には法的に「カースト制度に基づく差別」を禁じているが、身分、居住地域による経済格差には大きな変化は見られない。 貧困地域では、特に児童婚が多く見られる。婚姻の際に新婦側からダウリーと呼ばれる結婚持参金を贈る風習があり、そもそも女子の誕生が歓迎されない空気がある。その上、女性の年齢が上がれば上がるほどダウリーの額も増えるため、できるだけ早く結婚を決めてしまいたいという家庭の事情もある。 インドでもマハトマ・ガンジーやジャワハルラール・ネルー元大統領が独立運動を主導していた旧英領時代の1929年にすでに18歳未満の児童婚は法律で禁止しているが、風習や経済的事情による児童婚が現在でも当たり前に行われている現状がある。 「ギタは7人きょうだいで、上には4人のお姉さんがいるのですが、上の3人のお姉さん達は10代ですでに結婚しています。でもお母さんも代々そういう環境で育ってきていますし、早く結婚相手を見つけてあげること、結婚することが娘にとっての幸せにつながるという価値観も感じられるんです。外の世界を知らないから、それが当たり前でそれ以外の可能性に目を向けることができない。そういう根深さは感じました」 世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダーギャップ指数は、近年日本でも話題になるが、2024年のランキングでは調査対象の156カ国中、インドは129位。日本が118位なので、上から目線でこの問題を語ることはできないが、貧困地域からみれば「やむを得ない」児童婚の問題が暗い影を落としているのは間違いない。