資産1億円の親が残した「1枚のメモ」がきっかけに家族内の相続トラブルとなった長男の末路
「私は知らない!」死んだ父親の通帳から不審な引き出し記録
では、どうすれば「争続」は避けられたのか。林氏が語る。 「母親が『店舗と自宅は長男に相続させる』という遺言書を作成し、同時に次男、長女が納得する保険金が支払われる生命保険に入って、受取人を長男にしておけばよかったと思います。自宅不動産の評価額と同程度の保険なら良いですが、遺留分相当額(法定相続額の2分の1。この例なら不動産評価額の6分の1)でも、母親の考えと思えば、ここまでの争いには発展しなかったでしょう」 前出の貞方氏によれば、何と、「税務調査」のお陰で争続に決着がついた実例もある。 ●次女が父の預金を勝手に引き出していたことを税務署が暴いた 母親はすでに他界しており、このたび父親が80歳で亡くなったケースを紹介しよう。子供3人はそれぞれ独立して所帯を持っている。 父が亡くなる1年ほど前、父の体調がすぐれなくなってくると、滅多に実家に顔を出さなかった次女が、頻繁にひとり暮らしの父親の自宅を訪れるようになった。 いざ父が亡くなり、遺産分割協議を始めようと、長男が父の預金通帳を見たところ、数回に分けて計1500万円もの大金が引き出されていることがわかった。 長男と長女は、次女が勝手に引き出したのではないかと疑ったが、次女は「私は知らない」の一点張り。それどころか、「なぜ、私が信じられないの……」と泣きながら何度も潔白を主張する。 釈然としないものの、長男と長女は諦めて、残った現金を3等分することで遺産分割協議は決着し、相続税の申告も済ませた。
ウソは必ずバレる
しかし、それから数ヵ月後、事態が動いた。税務署から長男のもとに、「相続税の申告内容について、問い合わせたいことがある」と連絡が来たのだ。 税務署は被相続人だけでなく、相続人の銀行口座も同時に調査する。そこで、父の口座から預金が引き出された直後、同じ額が次女の口座に入金されていたことがわかった。しかも、次女の口座に1500万円の預け入れがあった直後に、次女の夫が同額のマンションを取得していたという。 税務署は使途不明になっていた1500万円の行き先をすっかり摑んでおり、次女のウソがバレたのである。 長男と長女が問い詰めると、次女もようやくウソを認めた。兄弟関係が完全に崩壊したのは言うまでもない。 その後、どうなったか。 「父親の相続財産が1500万円増えたため、再度申告したところ、新たな相続税が発生してしまいました。と同時に、税務署からは、『次女が夫に対して1500万円を贈与していた』と判断されたために、贈与税の支払いも求められてしまったんです」(貞方氏) 相続税の追徴分については、「お前が責任をとれ」と言われた次女がすべてを負担することになった。だが、次女の夫は定年退職し、自身も仕事をしていない。家計は火の車で税金を支払う余裕はない。購入したマンションを売却しなければならないかも―。 税務署は見ている。 自業自得とはいえ、欲に任せたウソは家族関係を崩壊させるだけでなく、自身の生活をも破綻させてしまうのだ。 『「残された側がこんなに大変だとは…」突然、妻を亡くした夫が大慌てで家中を探し回った「ある書類」』へ続く 『週刊現代別冊 おとなの週刊現代 2024 vol.4 死後の手続きと生前準備』が好評発売中! 累計188万部の大人気シリーズが、大幅リニューアルでさらにわかりやすくなりました! 週刊現代の大反響記事を、加筆のうえ、ギュッとまとめた一冊です。
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