資産1億円の親が残した「1枚のメモ」がきっかけに家族内の相続トラブルとなった長男の末路
「メモは遺言じゃない!」
残る現金と投資していた有価証券、合わせて約1億円をどう配分するかについては、長女が「もめるのはイヤだから、3等分するのがいいと思う」と提案した。 すると、男兄弟から異議が出た。 次男は「父さんは以前、『長男は会社を継ぐ。会社は今後も価値が高まるから、おカネは長女とお前がもらえ』と言っていた。そのメモもある」と主張する。 一方の長男は、「そんなメモなんか遺言じゃない!会社を俺が引き継ぐのは、お前らに経営能力がないからだ。今の会社は俺がいたから維持できている。貢献度を考えれば、より多くもらいたい」と言い出した。 次男が「いや、俺だって会社の経営に参加したかったが病気がちでできなかった。仕方ない」と言い返せば、「俺は前の会社で出世の道が開けていたのに、オヤジに呼ばれて今の会社に入った。むしろ犠牲者だ。お前は稼ぎが少ないのに、オヤジが買ったマンションのお陰で暮らせている。それだけで充分だ」と、昔に遡って大ゲンカだ。 それを見ていた長女は「実の兄弟なんだから、そこまで言わないで。家族よりもおカネがそんなに大事なの?こんなところを見たらお父さんも悲しむじゃない!」と、必死に止めようとした―しかし、長女は自分の取り分を減らしても良いとは、決して口にしない。
不動産は確実にもめる
議論は平行線を辿り、このままでは相続税の申告期限(10ヵ月)に間に合わない。そこで、1億円の現金と金融資産は、長男4000万円、長女と次男が3000万円と分けることで決着した。長男が引き継ぐ自社株を現金化するのは現実的でなかったためだ。 だが、3人とも最後まで納得してはおらず、「自分が折れてやったんだ」とそれぞれにしこりが残る結果となった。 貞方氏が解説する。 「まずは、子供たちがもめないために遺言書を確実に残しておくことが大事です。その内容も、『誰々に全財産を相続させる』と書くと、最低限の遺産の取り分である遺留分を他の相続人が要求してもめるので、もともと財産が少ない人、取り分が少ない人への十分な配慮が必要でしょう。 遺産が現金だけなら単純に頭数で割って決着することもできますが、不動産が遺産の中心となる場合、ほぼ確実にもめます」 実際、税理士の林修平氏が、こんな争いが起きた例を明かす。 ●財産は自宅の不動産だけ。どのように相続すればよかったのか? 果物店を営んでいた父親(80歳)の死後、母親(82歳)が亡くなった。相続人は長男、次男、長女の3人だが、相続財産は長男一家が住んでいた果物店兼住宅だけ。店の売り上げはほぼなかったため、現金なども残っていなかった。 店舗の権利を長男が相続すると、次男、長女には何も残らなくなってしまう。納得してもらうには長男が現金を渡すか、店舗不動産を売却するしかないが、弟たちに支払える現金資産は長男になかった。店舗不動産を売却すれば、自分の生活が成り立たなくなってしまう可能性が高い。 次男と長女は店舗を売却するよう求めてきたが、「店舗を守ってきたのは自分だし親の面倒も見てきた。自分が相続するのは当然だ」という理由で拒否した。 それぞれが弁護士を立てて争ったものの、それでも決着が付かず、泥沼裁判に発展、最終的には不動産を売却して3等分することになった。 次男、長女からすれば要望が通ったかもしれないが、長男との関係は修復できるはずもない。